■ それはつまり愛です
木吉に会う、と約束した日。違う別に嬉しいわけじゃない、あいつが勝手に決めた事だ。だから喜んでなんかない。そう思うのに身体は勝手に熱くなりそわそわと落ち着かない、それがたまらなく嫌だった。
今目の前にいるこの男は自分を見て優しく目を細める。ああ嫌だ。
「何笑ってんだよ。変な奴」
「いや、花宮は相変わらず可愛いなって思ってさ」
「はぁ? 馬鹿なんじゃねぇの」
本当に嫌だ。そんな風に優しい笑みをくれるのに、オレはいつだってそれに応える事が出来ない。せめてそんな顔を向けないでくれたらこんな言葉も言わずにすむのに。可愛いだなんて言われて身体が跳ねそうになるのを必死に抑えながら、木吉を見る。なんだよお前だって格好良いじゃねぇか。
ふざけんな。オレがそんな風に素直に言えるわけないだろ。知ってるくせに。
「花宮」
「な、なんだよ」
声が掛かるたびに、脈が速くなっていくのは事実でそのたび木吉の声を好きになるのも事実。伸ばされて来た手に戸惑って固まるのも好きだから、緊張するんだ。
「具合が悪い、わけじゃないな」
良かった。ぽつりと、そう落とされた言葉と頭を撫でる手。かぁっと顔に熱が集まっていくのを感じて羞恥心が押し寄せる。
嬉しい。本当は全部嬉しい。
「…んだよ。もういいだろ、手、のけろよ」
「んー、悪い悪い」
離れないで、そう思うのと口から出て行く言葉は反対。
「馬鹿やろう」
オレの馬鹿。最後にするりと頬を撫でていく大きな手。くっそ、なんでこんなに好きなんだよ。オレだってその顔に、髪に触りたい。キス、もしたい。そう思って一人で恥ずかしくなる。何考えてんだ。
「花宮、何食べたい?」
「ぁ…えっと、…お前と一緒ので、いい」
「いいのか? ならハンバーグな」
ここがレストランである事を忘れてじっと止まったままだったらしい。尋ねられて漸くメニュー表に視線が戻った。決まっていなくってつい口にした言葉に木吉は何だか嬉しそうな表情をして、それにまた反応してドクリと心臓が高鳴る。ハンバーグ、頼まれたそれに何故だかくすりと笑いが零れるた。
「ふ…やっと笑ったな」
「え?」
「今日まだ笑った顔見てなかったからな」
「…っ、木吉」
オレが笑った、それだけでそんなに嬉しそうな顔しないでくれ。死ぬほど嬉しくなるだろ。本当馬鹿みたいに喜ぶんだよ、オレは。
くっそ、好きだ。笑った顔可愛いすぎんだよ。目尻下げて笑いやがって。
「花宮、顔赤いぞ」
「だからっ、お前のせいだ!」
「そうなのか!」
「好きだばぁか!」
ここが、レストランだとかそんなの知るか。木吉お前が悪いんだからな。今度は大きな声で大好きだと言葉が響いて、驚いて少し開いた唇へ柔らかいものが触れた。