■ たかおくんと黒子先生
ねぇねぇ、黒子せんせぇ。
「お絵かきしようよ」
可愛らしく首を傾げる高尾くんは手に持った落書き帳を差し出して来た。
「いいですよ。 何を描きましょうか?」
「うーん…んっとね…」
悩んでいる姿も可愛いですね。これをどこかの誰かさんが見たら鼻血出してますよきっと。
真剣に何を描くのか悩んでいる高尾くんの姿に興奮する緑間先生を思い浮かべて頬が引きつるのを感じた。もう記憶には危ない顔しか浮かんでこない。
「お花でも描きませんか?」
「いいよ! じゃあ アベイ ドゥ クリュニー描こうね!」
「…!?」
ア…アベ、ドゥ…? ちょっと待て何ですかそれ僕知りませんよ。しかもめっちゃ発音良かった、びっくりしましたよ。
戸惑う黒子先生をよそに取り出した色鉛筆でさらさらと絵を描き出す高尾くんの落書き帳にはとても幼児の描くレベルでは無いクオリティの美しいバラが描かれていた。さ、さすがです高尾くん。
「バラ、ですか…?」
「うん! かずね、このバラね、黒子せんせぇみたいだなって思ったの」
あったかい色してるの、そう言って天使の様な笑顔を浮かべる高尾くん。
「高尾くん…!」
「わっ、くろこせんせぇ」
がばっと抱きしめると可愛らしい声を出しながら肩に手が置かれる。
可愛い、高尾くん天使。
「なっ…!」
その様子を影から見ていた緑間は絶句した。
高尾が、黒子とわちゃわちゃしているだと。
ずるいのだよ。何故黒子なんだ。
俺ではダメなのか。
「なぜだ…高尾」
「オイ」
「くそ…俺の何がいけない?」
「オイ、緑間」
「…くそっ」
「オイ!」
「ん、火神か。なんなのだよ」
「いやなんなのだよ、じゃねぇよお前怖いから。恐ろしいわ」
「あの2人を見るのだよ! あんなに楽しそうに絵を描いている! あの高尾の可愛い顔!」
「怖ェ、お前本当怖ェ。あと顔」
ビシッと音を立てて指された指。
完全に緩んだ顔の緑間は放っておいて2人を見ると何かを描いているようだ。そろりと近づいて覗いてみる。
「ぶっは! ちょっ、高尾、それはちょっと美化しすぎだろ」
「あ、火神先生。君もそう思いましたか?」
「な、何を描いているんだ? 別に気になったわけじゃないのだよ、ただお前達が騒がしいから…」
「はいはい。誰もツンデレなんて求めてないんでこれ見て下さい」
「しんちゃーん、みてみて! 上手に描けたんだよ!」
そこには王子様のような格好をした緑間が描かれていた。えへへ、と満足気な顔をした高尾くんにプルプルと震える緑間先生。
次の瞬間もう誰もが予測した通り緑間先生が高尾くんをぎゅうっと抱きしめた。
ああ、高尾くん、このままじゃあ君は変態ツンデレ眼鏡王子のお姫様にされちゃいます。
火神先生、真っ赤に染まった緑間先生の顔はまた僕の心に大きなダメージを与えましたよ。
「か、火神先生…僕もう彼を見ていたくありません」
「頼むから1人にしないでくれよ」
そろそろ警察を呼ぶべきなのでしょうか。
ぽつりと呟かれた言葉は高尾くんに夢中な彼には届かない。