文 | ナノ
「火黒くん、僕君が…」
「あ?」
いつもの風景。黒子と火神は一緒にお昼ご飯を食べている。ぽつりと呟かれた言葉に火神は続きを待ったがそれに続く言葉が無い。
食べかけの玉子焼きを頬張るとちろりと黒子へと視線をやると、
「あ…いえ、なんでも」
「?なんだよ?」
何でもないと言われてしまえばそれまでで少し気になるものの特に気にとめなかった。
そういえば次の授業は調理実習だったはず、火神は鞄から普段家でも使っているエプロンを取り出した。黒子も食べ終えたようでのそのそとエプロンを取り出す。何だか自分のものと違って白くてふわふわとした感じのエプロンで彼らしいと感じた。
予鈴が鳴り確か5分前集合だと先生が言っていた事を思い出して、行くぞと、火神は黒子へ声を掛け調理室へと向かった。
「今日はみんな大好きなハンバーグを作って貰おうと思ってるんだ。そんなに難しく無いからよ〜くプリントを見て作ってね。特に、女子!! お願いだから変な物入れないでよ」
「え〜?先生何言ってんの、あたしたちより男子に言うべきでしょ?」
なんて女子の面白そうな声が上がるけど黒子と火神には先生をこんなにさせる原因の人物が思い当たってなるほどと納得する。
「カントクだよ…な」
「火神くん、それ聞かれてたらどうするんですか」
ばっと慌てて辺りを見回して一息つく。いやさすがに授業中だしカントクがここにいたらおかしいだろ。だか、あの人のことだ細心の注意を払わなければ。
「はい、じゃあ開始」
その言葉を合図にエプロンを巻くと何故か黒子から視線を感じて、黒子を見ると少し顔が赤いような。
顔赤くねぇか、と問い掛けるとはっとして黒子は自分もエプロンに着替えた。
「なんでもないですよ」
「あっそ、んじゃ始めようぜ」
「はい」
「黒子はフライパンに火つけといて」
「任せて下さい」
そう言うと火神は玉ねぎをみじん切りにし始める。ついでにボールも用意してミンチとパン粉を入れて黒子の方を向くと、火力がとんでもなく強い状態に大量の油を注ごうとしているところだった。
「おま、危ねっ! それかせ!」
黒子の手から器用に油を奪うと火力を弱まで下げる。コイツ、カントクのこと言えねぇんじゃねぇか?
くるりと振り返り黒子を見るとやっちゃいましたとでもいうような顔をしている。
「僕には向いてなかったようですね」
「な、もういい。お前はあれ混ぜてろ、卵も入れ忘れんなよ。混ぜるだけでいいから」
「任せて下さい」
無駄に頼りがいのある表情でいうと炒めるための玉ねぎを火神に渡しボウルに手を掛けた。ジュッと音を立て火神は玉ねぎを炒める。べちゃ、っと嫌な音がして黒子を見るとぷるぷると震えながら小動物みたいになっていてその手元を見ると無残な卵の姿。殻が所々ミンチについていて、もうコイツが料理出来ない事を認めざるを得ない。
「だあっ、お前もう…あぁほら手かせ」
「すみません…」
「いいって」
そう言うと黒子の手についた殻とボウルの中まで入った殻を器用に取ると新しい卵を割ってやって混ぜ込む。班のメンバーに玉ねぎを頼むと丁寧に説明する。
「いいか? これを丸く丸めてから両手でこう投げる、優しくな」
「こうですか?」
「どわ、ちげぇ! 投げるってパスじゃねぇから! てか、まず取る量がちげぇそんなに要らねえよ」
「そうですか」
黒子の後ろに回り込み自分の手を黒子の手に被せると具を適度に乗せてそのまま両手の平で形を整える。そうするといい感じに出来てきた。
「火神くん…恥ずかしいです」
「は?」
後ろから火神の温もりが伝わってきて黒子はハンバーグどころじゃなくなっていて気を紛らわそうと顔を上げると班の皆の視線。あ、悪ぃと言って火神が黒子から離れる。さすが帰国子女、黒子はじと目で火神を見つめた。
「じゃあ焼くぞ。黒子、お前は座ってろ」
「はい」
数分後には出来たハンバーグ。それはもう美味しそうでじゅるりとよだれが出そうになるのを堪える。きらきらといつになく輝く黒子の目に火神は若干の癒やしを覚えた。
「いただきます」
あぁ、相変わらず火神くんの料理は美味しいです。ふにゃりとした顔で呟く黒子。
「うわ、火神くんって料理すごい上手じゃん」
「良かったですね、火神くん」
「う、お前どうしたの? 怖ぇー顔して」
ふん、と鼻を鳴らす黒子に訳が分からない火神は焦りながら目の前のハンバーグを完食した。
教室への帰り道、黒子は火神の横へと並ぶと、
「火神くんの料理が毎日食べたいです」
「来ればいいじゃねぇか、家に」
「違いますよそういう意味じゃなくて…」
くいと袖を引っ張り火神の視線を集中させると。
「僕君のお嫁さんになりたいです」
「…! は、な、なに言ってんだよ黒子、は」
かぁっと顔が真っ赤になる火神へと衝撃発言を残した黒子はふふ、と小さく笑った。
2013/03/09
料理下手なのはカントクだけじゃない!!