文 | ナノ

※吸血鬼パロ

あそこには吸血鬼が住んでいるんだよ、だから絶対に近付いてはいけないよ。そうそうこの前なんか私、女の悲鳴を聞いたのさ。怖いね、やだわ。

屋敷の外から聞こえてくる、そうどうしても聞こえてしまう声は明らかに嫌悪感を含んでいて、それでも不快感すら込み上げてこない。もう慣れてしまった。最初から興味の無い相手だった、だから好き勝手に言わせておく。

闇夜と同じくらいに濃く深い色のカーテンは光を一切この部屋には通さない。少し開けておいた隙間から零れる淡い光が緑を照らす。深緑のような髪を照らす光さえ今は邪魔ですっと緑間はカーテンを閉め切った。


夜が広がり人間達の気配も殆ど薄れてくる。前に街へと出た時に何気なく側を通った女の手を引き暗がりへと連れ込んだ。もちろん女は驚いたが、緑間を見るとすぐに表情を変え頬を少し染めた。それから飢えを満たす為に何も知らないその首筋へ鋭く尖った吸血鬼である証拠の牙をそっと埋め込んだ。さして美味しいとは感じないその血を吸った。

吸血鬼の唾液に含まれる成分によって力の抜けた身体はぐったりと。思う事など何もなく面倒事が起きないようにと記憶を吸い出す為に最後に一吸い、それから意識を手放す女を見向きもせずにその場を後にした。


あれからもう随分経つ、人々の想像が本当に実在する吸血鬼にまで至りたまたま少し雰囲気を醸し出すこの屋敷を吸血鬼の家、とした。あながち間違ってはいない事実に面倒そうに息を吐き出す。
かさっ、何かの音と足音。まだ遠くから聞こえたそれに遥かに発達した聴覚が敏感に反応を示す。人間、の足音だ、ここの噂を耳にしていないのか真っ直ぐだが少し迷いながらもそれは近づいて来た。丁度良いな、と緑間その足が此処へ辿り着くのを待つ。随分と食事をご無沙汰していたのだいい機会だ、口角が少し上がった。

やがて、重い扉が控えめに叩かれる。聞こえたのは微かに戸惑いを含んだ、少年の声。

「すみません…だれか、居ませんか?」

キイ、と音を立て開いた扉に少し安堵して高尾は足を踏み入れた。ただ視界には暗闇が広がる。少しばかり良い目を精一杯に使い見渡すがその目は何の情報も拾わない。ここにきて不安が押し寄せる、ただの噂だと思っていたあの話しが事実だとしたら。でも、自分にはここしか無い。身震いする。

震える息を聞きながら緑間はすでに捉え、確認したその姿に視線を巡らせる。一歩、扉の外に出た片足。その瞬間、ぐっと手首を掴み中へ引き込んだ。一瞬、月明かりに照らされた少年の顔が覗いた。大きな目尻の上がった目。

「ぅっ、な…!」

高尾も、見たのだろう。だか、そんな事よりいきなりの事に驚いて声も出ない。完全に閉まった扉はすぐに月明かりを断ち切った。


「え、っと、あの…」

「…」

沈黙が続き、それから高尾の方が言葉を発する。震えが微かに伝わってきても掴んだ手首は離さない。相手に見えていなくても此方は見えている、何の障害も無く襟のボタンを外すとそっと覗いた白い首筋に息を掛ける。

「ひっ…、な、にすんの」

「少し黙れ」

それとも痛い方が良いのか。理解出来ない言葉に訳が分からず高尾が反射的に黙ると、硬い何かが首筋に当てられる。ひくっ、と音を立てて引きつった目の前の首筋にぐっと噛み付いた。ぶつっと鈍い音の後に声に鳴らない悲鳴が続く。

「つっ…! あ、ぁ、く、」

熱い、痛い、何んだ。何が起きてる。首が焼けそうに熱い。じゅる、と聞こえてきた音に自分が喰われているのにやっと気付いた、あの噂は本当だったのか。じゃあこの人は吸血鬼、なのか。段々と頭の中までじわりと熱が浸食してくる。身体から力が抜けていく、このまま死ぬのか。そんなのは嫌だ。
意識の無くなりかけていた瞳が緑間を見つめて、だらりと、下がりそうになった手が身体を支えていた腕を確かに掴んできた。精一杯の力でしがみつくように。強い意識が瞳から消えなかった。思わず血を吸うのを忘れて暫く視線を合わせる。こんな人間は初めてだ、強い瞳に何か内側を突き動かされるような気持ちに緑間は興味を抱いた。面白い。

「ふ、…ぁ、あ」

唾液の作用で力の抜けきった身体を抱えるとさっきまで自分の牙が埋められていた首筋の噛み痕をそっと指先でなぞってみる。ぴくり、微かに揺れる瞼。
零れるのは笑み。

2013/06/12

吸血鬼緑間さんと餌食になった高尾









 
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