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鬱陶しいほどの太陽光線は、私の意識を覚醒させるのには充分だった。

のそり、と緩慢な仕草で私の温もりが残るお布団様から抜け出した。

台所からふんわりと漂う出汁の匂いを肺一杯に吸い込めば、自然と頬が緩む。



いつもの休日。

そう、これは何年も繰り返したいつもと変わらない休日なのだ。



「おはよ、大我。」

「おう、飯出来てんぞ。」

「ありがとう。」

これもいつものこと。

少し遅く起きる私と、朝ごはんを作ってくれる大我。

今日の朝ごはんは和風か…

少し塩っからい、ふっくらとした鮭と、お味噌汁に卵焼き。

彼が作るものは魔法でもかけてあるんじゃないかと思うほど美味しかった。

「ん、美味しい。」

「当たり前だろ、何年作ってると思ってんだよ。」

子供みたく笑う姿に、少し胸が痛む。

なんとなく大我と同居して4年目に入ったが、私達の関係は平行線のまんまだ。

この同居生活中に、名目が同棲に変わることはなかった。

否、正確に言えば"そんな雰囲気"になったことは何度かあっても、そこから先には進めなかった。

優しすぎる大我と、臆病すぎる私の気持ちは溶けることはあっても混ざりはしなかったのだ。

大学生を謳歌していたあの頃から、お互い新入社員としてお茶汲みに励んだり、大型新人としてバスケ界に名を轟かせた今でも。

私はそっと瞼を伏せた。

「あー、やっぱり大我のご飯美味しい。」

「……」

食後のお茶を飲み干すと、空になった食器をシンクへと運んだ。

蛇口から排水溝へ水が止めどなく流れてゆく。

波を作って、飛沫を跳ねさせて、光を吸収して。

「……なあ、」

「んー?」

「いや、なんでもねぇ。」

ピカピカになった二人分の食器が、やけに白く光って見えた。

震える唇を無理矢理動かす。

「気になるじゃん!」

わざと明るい口調で言った。

だって、大我の声があまりにも暗く沈んでいたから……

「気にすんな。」

曖昧に笑った大我に、「ん。」と私は小さく頷いて冷蔵庫を開けた。

冷気を頬に当て、長く息を吐く。

「…言わなくちゃ。」

モーター音に掻き消される位の小さな音を庫内に置いて、代わりにオレンジジュースを取り出した。

それは、ずっと前から決めていたことだ。

私も大我も、もう子供じゃない。

お互い、生活に困る程お金が無いわけでもない。

これからの未来、大我の隣に居るのは私じゃない。

そんなこと、分かってる。

ただ……

ただ、将来の私が大我以外の誰かと生活しているのが考えられないのだ。

私はそんな利己的な理由で、優しすぎる大我を縛り続けている。

「…ねぇ、」

でも、私が大我の未来を壊してしまう前に…

「大我。」

小さな嘘をつこう。

「私ね、恋人が出来たの。」

身体中が冷えた。

嘘が嘘を誘発して、大きくなってゆく。

「その人と暮らすから、」

声が情けなく震えてしまう。

声だけでなく、指先も視界も小さく揺れている。

「ごめん……」

「嘘、」喉から溢れだしそうな言葉は飲み込んだ。

本当はまだ大我のご飯が食べたいし、一緒にDVDを観たりしたい。

「しょうがねぇな。」って私の子供のようなワガママを笑ってほしい。

キラキラした笑顔を傍で見ていたい。

だって、

でも、

―だって……



「ウソツキ。」



その時、優しい声と温かな温度に包まれた。

「やっぱり、言うわ。」

赤い髪の毛が目の前でゆらゆらとしている。

「俺は、お前以外の誰かと生きるなんて考えらんねー」

目を閉じると、赤が滲んだ。

「なんとなく、お前も同じように思ってるんだって感じてた。」

赤が広がる。

まるで、紙にインクが滲むように……

「この4年間はなかったことに出来ないし、するつもりもない。」

力が少し緩まると、今度は視界が暗くなった。

柔軟剤の匂いが鼻孔を擽り、赤は見えなくなった。

「ただ、これからの未来を…」

待って。待ってよ……

言いたいことはあるのに、一層強い力で抱き込まれてしまえば私はどうすることも出来なかった。

「俺に、」

違う。それは違うよ。

だって、私達は4年間同じ屋根の下にいたってなにもなかったんだよ?

「預けてくれ。」

大我の腕から解放されると、蛍光灯の光が目に沁みた。

あぁ、もう誤魔化せない。

「いい、よ……」

滲む視界の隙間から見えた"光"に、私は目を細めた。



だから世界は眩しいのだ


ほら、世界はこんなにも…




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