Uniform



「あ」


短く発せられた言葉には一体どれだけの思いが乗っていたのだろう。
押し入れの奥底のダンボール。そのダンボールの中にこれでもかと言う風にぐちゃぐちゃに詰め込まれたあの日の制服を見つけた。


「どうかしたの?」


私が高校を卒業し、一人立ちすると聞いてご丁寧に荷造りを手伝いに来てくれていた玲央がひょこりと顔を出した。

そして、私の手に持たれている「ソレ」に気付いて少しばかり口元を綻ばせる。


「あらあら!帝光の制服?」

「うん、何処に行ったのかと思ったら此処にあったみたい」

「アタシも家にあるわ。中学の時の制服」

「やっぱり、残しとくものなの?コレって」

「想い出として残しておいてもいいんじゃない?捨てる人もいるでしょうけど…」

「ふぅん」


素っ気なく返事を返して、真っ白な制服を目におさめる。
真っ白な記事に緑のライン。そんな極シンプルな制服が私は好きではなかった。
理由は幾つかあって。


1つ、根本的に白が似合わない

2つ、汚れが目立つ

3つ、皆同じ制服だから中身が悪目立ちする


3つ目が主な理由だ。
純粋な子には白はよく似合う。だけど、私のように歪んでいる子に白は似合わない。

いつの間にか力が入りすぎていたらしい。
制服がさらにしわくちゃになっている。


「見てみたいわ」

「は?」

「名前がそれを着てるところ」

「な、なんでそうなるの」

「アタシ、中学の名前を知らないもの」

「……嫌」

「いいじゃない!少しだけ!」

「嫌ったら嫌なの!!私、白似合わないし!」


もう片付けてしまおう。
いっそその方が早い。

超高速でダンボールの中に制服を片付ける。
しかし、私の超高速は玲央にとっては遅かったらしく、
呆気なく手首を掴まれて制服を下に落とした。

思い切り顔を歪めて玲央を睨む。
それでも、彼は痛くも痒くもない、とでも言うようににやりと笑ってみせた。



「さ、来て頂戴!」

「…嫌…」

「アタシも今度着て見せるから」

「…フェアじゃない。写真撮らせてね」

「な、なんでそうなるのよ…」

「私の制服と玲央の制服じゃあ、公平じゃないもん」

「まぁ、いいわ…」


渋々と玲央は頷いてから立ち上がって部屋を出ていった。
どうやら着替えろ、ということらしい。
全く、見かけによらず横暴だ。


素早く着替えを済まして玲央より一足早く鏡で確認する。
真っ黒なリボンと真っ白なブレザーはあの頃と変わらず全く似合ってなかった。


「入っていいよ」


そう言われて、数秒後に入って来た玲央は驚いたように目を見開いた。
今すぐ穴に入りたい気分だ。最悪。


「似合ってるじゃない…!似合わないって言うもんだから、もっとこう見るに耐えないくらい酷いものだと思ってたわ」

「うっさい!!死ね!」

「あはは、冗談よ。怒らないで?」

「もう!玲央なんて嫌い」

「あら。アタシは名前のこと好きよ?」

「私は嫌い!」


べーっと舌を出して玲央を睨みつける。
今回は流石の玲央も困ったように笑ってみせた。

(さっさと脱いでしまおう)

しゅるり、と音を立てて首からリボンを解いたと同時に玲央と目が合う。
今、玲央は何を考えているんだろう。


「私ね、」

「何?」

「帝光の制服も洛山の制服も捨てる」

「勿体無いわねぇ。どうして捨てるの?」

「嫌いだから。私、やっぱり制服って嫌い」


帝光のブレザーを脱いですぐ近くのゴミ箱に放り投げる。
ぼすん、と音を立ててゴミ箱の中へと吸い込まれていく。


「…ごめん。嘘」


もう、ゴミ箱の中へ入ってしまって見えない。
ブレザーもあの頃の思い出も。

泣きそうな声で訴えた謝罪。
それに玲央は静かに頷いた。

きっと、彼は分かっていたのだろう。
私の本音が。


「ほんとは、ちょっと、すきだった」


苦くて酸っぱいような思い出も
帝光時代も洛山時代も
玲央のことも


そして、



真っ白な制服のことも。




back