Uniform



 思い返せば俺は高校生になってからというもの、バスケしかしてこなかったなとウィンターカップが終わり落ち着いた今思う。
放課後はすぐに体育館に飛んでいったし休日も練習、長期休業は合宿に費やした。
 笑っちまうくらいバスケしかしてきてない。
勿論学業だって怠ることなく常に成績は上位にいた。
気付けばこの学ランを脱ぐ日も近い。
バスケと学業その二点が凝縮された三年間だったが、それだけじゃなかったのは確かだ。


「清志くん」


俺の名前を呼んだ彼女が紛れもない俺の青春だった。


「どうしたの?ぼーっとして」
「なんでもねーよ・・・・・・」


そう?とふわりと笑って彼女は俺の前に座った。
寒い冬の窓際だってのに、そこだけが春みたいで少し和んだ。
 名前は高校一年生の時から付き合っている彼女だった。
たしか告白は彼女から。
 バスケにしか興味がなかった俺は部活を理由に断ろうとしたのだか、彼女は俺が口を開く前に
『宮地くんがバスケに一生懸命なのも知ってます。こんな恋愛ごとにかまけてる暇がないというのも分かっているつもりです。でも、私は宮地くんが・・・・・・好きなんです』
と、最後の言葉以外は言い淀むこともなく言った彼女に興味が沸いた。
彼女はどこまで出来るのかということからの付き合い始めだったと思う。
俺が頷いた後ぱぁと笑って俺に礼を言い
『宮地くんが私を邪魔だと思ったらすぐに言ってくださいね』
と言っていたのは今でも衝撃的だったから覚えてる。
 そのあと名前は宣言通り俺の邪魔どころかサポートをしてくれたし、彼女はまったくワガママを言わなかった。
多分デートも数える程しかしてやれなかったのに、よく愛想尽かされてねーよな。


「なぁ、名前。お前は俺と付き合ってて幸せなのか?」


名前の瞳がまんまるになって、そのあとはいつも通りふわふわの笑みを浮かべただけだった。「清志くんは馬鹿だなぁ」とも言っていた、こっちは真剣なんだが。


「じゃあさ、清志くんには私は幸せそうに見えないの?」


変わることのない笑顔を見てる限りはない……、と信じたい。


「真面目な清志くんのことだから何か難しいことを考えているんだろうけど。私はね、大好きな事に一生懸命な清志くんを一番近くで見れてすごい幸せだよ?だから私の事は二の次でもいいの」


……こいつは聖人君子か。聞き分けが良すぎると思ったらそんな風に考えていたのか。それを俺は上から目線で心配してたってワケか……何が成績上位だ、轢くぞ俺。深いため息をついたら頭上で俺を心配する声が聞こえた。自分の彼女が良い子すぎて自分が情けない。二の次でいいと言われて今までずっとそうしてきた俺にはガッカリだ。


「名前。今すぐにワガママ三回言え」


うちのワガママな後輩じゃねーが、名前なら許されて当たり前だ。むしろ三回では少ないぐらいか。視線を上げてみると、唸りながら困惑の表情で考えていた。


「うーん。じゃあまず一回目、私の言うこと面倒くさいって思わないでね」
「それワガママって言わねーよ」
「えっ。……でね、駅前にクレープ屋さんが出来たんだって」
「よし、行こう。制服デートだ」


デートの言葉にぱちりと目を瞬かせた後、はにかむものだから可愛いと思う。
最後のワガママだからか今度は真剣な顔で。


「今日は清志くんを独占してもいい……?」


言い終わった彼女は机に顔をうずめてしまった。あぁ、名前には一世一代のワガママだったのか……結局全部ワガママじゃねーし。よしよしと今まで構ってやれなかった分の愛情を込めて頭を撫でた。


「今日だけでいいのか?」


もぞりと動いた名前が目だけをのぞかせて不思議そうな顔をしてた。言い聞かせるように引き続き頭を撫でて言葉を続ける。


「名前が望めば、放課後のデートも休日も好きにできる権利を今日だけにしちまっていいのか?」
「……いいの?」
「いいから言ってんだろ、轢くぞ」


あまりに可愛い顔をするから頭を撫で回して、俺の緩んだ顔を見られないようにした。ぐちゃぐちゃにしてしまった髪を直して綺麗に整えた前髪に気付かれないようにキスを落として、


「これからずっと名前は俺の一番だ」


花が咲きそうな満面の笑みと『清志くん大好き』の言葉に撃沈した。
いつか俺の方が好きって言えるようになってやる。




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