Uniform



「……あのね紫原くん。制服でうちに来るなって何度言えばわかるの」
「えー? いいじゃん別に」
「よくないから言ってるの!」

近所の陽泉高校に通っているらしい少年、紫原敦。
ひょんな事から懐かれた私の家に、彼は暇があれば来るようになっていたのだけど。
止めろと言うのに、彼はいつもいつも、制服のまま私の家に来る。

とっくに社会人になってしまっている私にとって、学校と言うのはいっそ聖域のような所のように思う。
私は二度とそこには戻れないし、彼や、彼の同級生達が身に纏うそれを私が纏う事は無いし、出来ない。

それを微笑ましいとか懐かしいとか思えずに、男女に関わりなく同年代の子らに囲まれていたりするのを見つけては妬んで苛立ってしまう私の八つ当たりとも言えなく無いけれど。

もっと社会的な理由もちゃんとある。

「あのねえ、君にその気が無くても合意の上でもね、世間は社会人と高校生のお付き合いは認めてくれないし、公になった時に私が盛大に責められるの。世の中そういう作りなの」
「知ってるし」
「なら余計に止めてよ……!」

馬鹿にするなという風体で返された言葉に頭を抱えた。
どうしてくれようこの自由人。

深々溜め息をつくと、ガリゴリと飴玉を噛み砕きながら。

「バレなきゃこのまんまでいいし、バレたらバレたでいいよ別に」
「私が悪いんだってば」
「そしたら噂になる? ニュースになるかもね」
「なるだろーね……」
「お嫁の貰い手無くなるね」
「本当だよ」
「そしたら俺が貰ったげる」
「だからそうなる……ん? え? なんでそうなる?」

今なんて言ったこいつ。

「名前ちんさ」
「え、お、おう」
「もう諦めたら?」

俺自己中だし、なんてけらけら笑って言った。

最近の高校生ってこわい。えっ、ちょっと待ってついて行けない。ん?

「あの、紫原くん」
「あ」
「え?」
「あと二年は待ってね」
「いや……えっ……?」
「返事は訊いてねーから。どうせ今まで俺を閉め出したりしなかったくらいじゃん。否やは聞かないから」

ガリリ、また飴玉を噛み砕いて、にいっと笑った。

苦し紛れに、君は意外と策士だな、と呟くと、よく言われると答えた紫原に。どうにも、何度も繰り返してきたこの応酬の軍配は、制服姿の彼に上がったような気がする。




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