Sorrow



君と出会ったのは、雲1つない快晴の日だった。


「あれ?君もさぼり?」


眠くて仕方がなかった日。
俺は授業をさぼるために屋上へと足を運んだ。
とてもいい天気だったからなんだか教室に閉じこもっているのがもったいなくなったのだ。


「君、噂の黄瀬君だね?」
「はあ…」
「思ったより、普通のイケメンだね」
「…はっ!?なんスか、それ!?」


屋上で出会った名前の第一印象はあんまりはっきりとは覚えていない。
モデルの俺に対しての先入観を全く持ち合わせていないってことが解って、話しやすい子だったなってぐらい。
特別意識したりとか、そういうことは全くなかった。


「あ、黄瀬君。空を見てみなよ。奇跡の雲が浮かんでるよ」
「奇跡の雲?」


言われるがままに上を見上げればそこには何の変哲のない、長細い雲が一本青空に伸びているだけだった。


「ただの飛行機雲じゃないっスか」
「飛行機雲って、そんな頻繁にできるわけじゃないんだよ?色んな条件が揃わないとできないものなんだから。」
「へえ。」


見られてラッキーだ。
そう言って名前は笑ってた。
とても朗らかな笑顔で。


「奇跡の共有だね!」
「…なんスか、それ」


俺は思わず名前につられて自然と笑ってしまった。
そんな俺の様子を見て名前はもっと笑顔になった。
それから天気のいい日は飛行機雲を探すことが決まりとなった。
結局、2人で飛行機雲がみれたのはその1回きりだけだったけど。
俺たちは子供みたいに夢中になって空を見上げてた。


「ねえ黄瀬君」


その日の名前はとても寂しげに笑っていた。
だけど俺は気づかないふりをした。
さまざまなところから聞こえる生徒の賑やかな話声に耳を傾けて、わざと名前から注意を逸らして。


「私、アメリカに行くの」


夢を叶えるために。
そう告げる君の声はなんとなく震えている気がして。


「黄瀬君と一緒に過ごす時間は、かけがえのない時間だったよ」


ありがとう。
そう一言つぶやいて君は綺麗な笑顔で涙を流しながら屋上を去って行った。
ただ一人、俺を残したまま。


「あ…」


君が日本を発ったその日は雲一つない快晴で。
青空に一本。綺麗な飛行機雲がまっすぐに伸びていた。


「結局、言いたいこと何1つ伝えられなかったっスね」


名前の笑顔が自然と浮かんで、俺の口元は弧を描く。


「さようなら、名前」
「大好きでした。」


俺はその雲に手を伸ばして翳す。
青空に浮かぶ飛行機は、遥か遠く、自らの進むべき道に向かって行った。




ぼくらはその軌跡を愛していた




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