Sorrow



あなたが大切だから。今の関係が心地良いから。チンケな言葉で愛を語りたくないから。こんな事を言うのを許してほしい


「うそつき」


ズーッと音がする。シェイクが無くなった。甘ったるいシェイクやっと終わったな、なんて思って目の前の人を見れば、私の発した言葉に目をぱちくりさせている


「急になんスか」

「うそつ黄瀬」

「だから、何スか!」

「私に何か嘘ついてるでしょ」

「…は?」

「例えば、そうねぇ…彼女、もしくは好きな人が今そばにいるでしょ?」


ポテトを1つ取り頬張れば、黄瀬は一瞬だけ眉間に皺を寄せて、“適わねーっスわ”と呟いた


「白状しなさい」

「…彼女、出来たっス」

「良かったじゃない。私、もう黄瀬のお守りしなくていいのね」

「ひどっ!」

「幼なじみだからってこうも毎日呼び出されるのも正直迷惑なのよ」


嘘、本当は嬉しい。彼女さんがいるにも関わらず私と遊んでくれるなんて。まぁ、彼女さんには少し申し訳ないけれど


「で、どんな子?何処にいるの?」

「…あそこの隅で友達と話してる子っスよ」


そう黄瀬に言われて見た彼女さんはとても美人で優しそうだった。兄妹のように育った黄瀬と私、いつしか互いに大人になって、互いに仕事に追われるようになって、会うのは毎週末呼び出されるファストフード店。ただの幼なじみ、それが私と黄瀬の関係で、永遠に幼なじみでいると言う協定を結んだ仲。黄瀬はモデル、私は一般人。黄瀬にスキャンダルなんか持ち込まれたら困るから、本当はこうやって会うのも複雑な気持ちになる


「そっちはどうっすか?」

「仕事忙しいわよ。暇じゃないわ」

「俺が暇みたいな言い方やめて」


そう言って黄瀬はポテトをつまんだ。細い綺麗な指、子供の頃はその手に導かれて沢山のところに行った。もう、触れることのない、子供の頃の出来事


「ねぇ」

「何スかー?」

「もう会うのも止めない?」


そう言えば黄瀬は、目蓋を2、3回ぱちくりさせた後、“そーっスね”と呟くように言った


「気づいてる?彼女、私達の方何度も見てる」

「知ってるっス」

「…愛されてるわね、黄瀬」


本当はね、黄瀬に呼び出される度に、このシェイクの様に甘ったるい恋愛が出来るんじゃないかって期待した。そんなの無理なのにね。私はバカだなぁ…涙が出そうになるのを誤魔化すように席を立てば、黄瀬に近づく女の子達。知ってたよ、黄瀬、“彼女出来た”なんて嘘だって、だってあの隅にいた子、明らかにミーハーなファンだったもの。黄瀬を見る度きゃあきゃあ言って友達と話して、私のこと睨んで…私には出来ない行為。学生の頃にたくさん浴びた視線だったからすぐにわかった


「急に立ってどうしたんスか?」

「コンタクト、ずれちゃって」

「大丈夫っスか?」

「うん」

「メガネ、止めたんスか?」

「…うん」


“メガネ姿好きだったっスよ”なんて笑う黄瀬に泣きそうだ


「帰るね」

「じゃあ、俺も」

「彼女といなくていいの?」

「か…彼女は友達と話すって」

「そう」

「最後なんだから送らせて欲しいっス」

「…いいよ」

「じゃあ、最後のわがままっス。聞いて、お願い…!」


手を合わせてお願いされて、“しょうがないなぁ”と呟いた。黄瀬のお願いには昔から弱い。2人で歩いた道中は何も話さなかった。いや、話せなかった。お互いに。その方がきっとこれから幸せなのだ


「じゃあね。ありがとう」

「あの、その…なんて言うか…ありがとうっス。今まで」

「うん。こちらこそありがとう」


“彼女と仲良くね”そう言えば黄瀬は辛そうに笑った。モデルがそんな顔をしてはいけない。ポーカーフェイスを貫かないと。そう思って、黄瀬の頬を抓ったら、抱き締められた


「嘘っス!彼女いるなんて本当は嘘で、見栄張りたくて、本当は、本当はっ…!」

「…ごめん、黄瀬」

「え…」

「私も嘘ついた」


“黄瀬が好きだよ。ずっと”そういって笑った





「さようなら、幼なじみの黄瀬涼太。こんにちは。彼氏の黄瀬涼太」

「じゃあ…!」


こくりと頷けば強く抱きしめられた




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