▼Sleep 名字名前は何時も寝ている。 授業中は朝飯前。 体育も休憩時間も放課後も調理実習の時だって。 彼女が起きているところを拝める方が珍しい。 寝てることが多すぎて、彼女についたイメージは寝ている女子。 寝ている女子、と言われるだけで#苗字#が出てくる。 と、まぁ、面倒くさそうな女子ではあるが、 別に傍から見てれば面白いで済むだろう。 だけど俺は違う。 俺はその女子と同じ学年同じクラス、おまけに隣の席。 こっちが授業をしている時に隣で寝られるのはいい迷惑だ。 正直言って、とても鬱陶しい。 早く席替えがしたい。 直接、本人にも言えないし。 兎に角、アイツから早く離れたい。 あくる日の昼休み。 ソイツはまた寝ていた。 中庭の大きな木のしたですやすやと、それはそれは気持ちよさそうに。 「結構なご身分っスねぇ」 昼休みもあと5分程。 予鈴が鳴って慌てて教室に戻ってこればいい。 一回、痛い目見ればいいんだ。 寝ているソイツを横目に踵を返そうとした、その時。 次の時間が体育だったことを思い出した。 確か、今日は体育館でバスケ。 予鈴がなってから着替えたんじゃあ、まるで間に合わない。 立ち止まって名字名前の方を見る。 あの様子じゃ、誰かが起こさない限り起きそうにもない。 いや、俺はほっとけばいい話だ。隣の席ってだけで関わりはないし。 でも、もしも本当に起きなくて、授業に遅れて、 鬼と呼ばれる厳しい体育の教師に怒られたら… 脳裏に体育の教師に怒られて肩を下げている名字名前の姿が浮かび上がる。 仕方がない、とため息をついて#苗字#名前の傍まで寄ると、雑に肩を揺らす。 動きに合わせて、細い髪がサラサラと流れる。 「ちょっと、アンタ!起きないと授業遅れるっスよ!」 「……ん…」 声を初めて聞いたような気がした。 隣の席って言っても関わったことはなかったし、ただ俺が一方的に苦手だっただけで。 名字名前は長い睫毛を震わせてから、少しずつ目を開けていく。 ちゃんと起きているところを見るのも初めてだ。多分。 ソイツは目を完全に開けて俺を見ると、大きく目を見開いた。 「黄瀬、君?」 「次、体育っスよ。遅れてもいいんスか」 「…私、遅れても怒られないから置いてってくれて良かったのに」 「は?」 手ぐしで髪を整えているソイツを見て、すっとぼけた声を出した。 確かに、言われてみれば、何時寝ていてもコイツは怒られていなかった。 注意の一言もなかったし。 「な、なんで…」 「私、こういう体質なの」 「はぁ?」 「寝たくなくても寝ちゃうんだ 私は望んでないんだけど、体は望んでる、みたいな」 名字名前は、ふにゃりと緩んだ笑顔を見せて、立ち上がりスカートの皺を伸ばした。 「一回だけ、一年くらいずっと寝ちゃって… それを避けるために何時でも寝ていいよーってことになってるの」 「へ、へぇ…」 「黄瀬君が起こしてくれるなんて思ってなかった」 さわさわ、と吹き始めた風に揺れ始める髪を抑える。 同じことを彼女もしていて、思わず息を飲んだ。 あまりにも、絵になっていて綺麗だったから。 「嫌われてると思ってたから、嬉しい ありがとうね、黄瀬君」 そう言って名字名前が優しく微笑んだ。 同じ学年同じクラスの名字名前は何時も寝ている。 寝てることが多すぎて、彼女についたイメージは寝ている女子。 それは、実は訳ありで寝ていただけ。 だから、イメージは訳ありで寝てることが多すぎて、彼女についたイメージは寝ている女子。 ともう一つ 俺の隣の席で、出来れば席替えはしたくない。 back |