Sleep



目をあけると、目元が濡れていた。

「おい、大丈夫か?」

いつもは青い髪の天才と同じくらい悪い目つきが、心配そうに歪んでいた。
それに伴い、二股に別れた眉も情けなく下がっている。

「あ、うん」

ぼうっと天井を見上げていると、夢の内容の断片が一つ、また一つ思い出されて、また涙が出た。
その涙を拭う指先は優しくて、ごつごつしていて、夢の中のアイツのと似ているけれど全然違う。

「泣くなよ」

困ったような顔で私を見下ろす彼に両手を伸ばすと、察してくれたのか優しい抱擁をくれた。
そのまま大きな身体の中に身を埋めて彼の背中にしがみついた。
ああ、こんなにも温かい。

「あのね、あの頃の夢をみてたの」

その言葉に大我の身体が強張った。

「黒子と、他のキセキの世代のみんなと、それからさつきと、幸せだった頃の夢…」

ぎゅうっと先程より私を抱きしめる腕に力が篭った。
あの頃、私はキセキの世代の一人青髪の天才と付き合っていて、けれど、彼の才能開花と共に捨てられた。
けれど捨てられてからもずーっと彼のことが好きで、泣いて、堪えてきた。
それが報われないと分かっていたのに、諦めが悪いと自分でも思う。
それから誠凛にきて、大我と出会って、なんと似ているんだろうと思った。
そうして気がつけば大輝ではなく、大我に溺れていた。
大我には付き合い始めたころにこのことを伝えた。
けれど、今は俺が好きなんだろ、ならいいよ別にという返答をもらった。
その時、大我の肩には少し力が入っていたけれど…

「だけど、また夢の中で大輝にフられて、みんなバラバラになって、そしたらね、真っ暗な世界に閉じ込められるの」

何も見えない、真っ暗な世界。
ひとりぼっちで、暗くて、何も見えない。
そんな闇が怖くて、私は一人泣きじゃくる。
だけど、そこで大我の声が聞こえて手を伸ばしたところで目が覚めた。

「そっか」

暗いトーンで言った大我。
きっと何て言っていいか、分からないのだろう。

「ふふ、でも大我は私のヒーローだね」

大我の頬をできるだけ優しく両手で包んだ。
日焼けした健康的な素肌は性格に似合わずきめ細かく、荒れていないから羨ましい。

「そーなのか?」

「うん、だってヒーローはお姫様のピンチに現れて救ってくれるんだよ」

そう、私が苦しいとき大我はいつも助けてくれる。
心も体もワガママな私を満たしてくれる。
いや、私が勝手に満たされているだけなのかもしれないけれど…

「だからありがとう、大我」

お礼として優しく唇を重ねて、離そうとすると逞しい腕で後頭部を抑えられ、キスがさらに深くなる。
大我の荒々しい舌が私の口内を犯すから、私もそれに応えて舌を動かす。
どれだけそうしていただろうか、彼の唇が離れて首筋へ向かう。
ちゅっと音がして吸い付かれた。

「名前」

熱っぽく呼ばれた名前に応えて、私も彼を見つめた。

「夢なんか、忘れちまえよ」

そう言って大我は私の服を脱がせ、再び素肌に吸い付いた。
そして私はまた彼に全てを委ねる。










陽炎に見た白昼夢

どんなに切ない夢も彼が忘れさせてくれるの。
だって彼はヒーローだもの。





ふと目に入った時計は、もう休日の真昼間の時間をさしていて、寝過ごしたことを意味していた。
けれど、構わない。
彼は絶対安静を命じられ、私はその監視役としてここにいるのだから。
こんな、如何わしい行為をしているなんてきっとみんな想像してないだろうけれど。

「I love you…」

囁かれた愛に、くだらないことも考えられなくなり、思考はまた彼に溺れていく、夏の終わりの日曜日。
蝉の合唱が遠くで聞こえた。




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