▼Sleep 教室に忘れ物をした。 それに気付いたのは部室のすぐそばで、それは明日には提出しなければならない課題で。 緑間に伝言を頼んで教室に走った。 「あ、れ?」 教室に行った俺が見たのは、俺の席で寝ている女子。 否、正確には、俺の前の席に横向きに座っていて、俺の机に突っ伏して寝ている、名字名前。 俺は正直、彼女が得意ではない。 俺が相棒と言って憚らない緑間もぶっきらぼうだし無表情だしだけど、あれはあれで中々に天然なところがあっておもしろい奴だ。基本いいやつだし。 勿論名字が悪い奴だとか言うわけではないのだけど。 ぶっきらぼうで表情の変化も乏しく、真面目で(特に俺に)手厳しい。なんというか、普段の態度から見るに、自分は彼女に好かれていないだろうな、と思っているのだ。 だが、これはどういう状況なのだろう。 放っておけばよかったのかもしないが、どうせこの教室もじきに施錠される。 どうしよう、と思いながら課題は机の中から無事回収。 控え目に肩を揺すって名前を呼んだ、ら、もぞもぞと顔を上げた。 「名字、起きろって、おーい」 「……たかお? ぶかつ……? ゆめ?」 「や、俺忘れ物してさ……っつか、教室閉められっちまうぞ」 一応視線は向き合っているけれど、彼女の目はぼんやりしている。どうやら寝起きはそんなに良いタイプではないらしい。 なんかシャキッとしてない名字って珍しいなあなんて悠長に構えていたら。 「……ありがと」 ふにゃり、と、笑った。 「……っじゃあ、な! 俺部活行くから!」 無駄に広い視界に彼女がまた机に沈んでいくのを見たけど、そんな些細な事はどうでもよかった。 名字名前はただのクラスメート。 仲はあまりよくはない。 ぶっきらぼうで、表情は乏しくて、真面目で手厳しい。 俺のことは、多分、あまりよく思ってない、"はず"。 全力疾走で部室に行って着替えて体育館に入る。 ばくばくと逸る心臓をぎゅうと練習着の上から抑えつけた。 名字のあの表情はなんだ、あの状況はどういうことだったんだ。 「……高尾、お前、いったいどこから走ってきたのだよ」 「は……? 教室、だけど?」 緑間の質問は、その訝しげな表情は、どういう意味だ。 「本当にか? その割には、随分顔が赤いが」 ああ、もう、いったいなんだっていうんだ。 とりあえず俺、明日からどうすればいい? back |