Sorrow



『結婚するんだけどさ、』

久々の宮地からの電話だと思ったら。
もしもし、の挨拶もなしに、いきなり結婚のご報告なんてどれだけおめでたい頭してるんだろう。この人。
電波に乗って聞こえる宮地の声は相変わらず感情が読めない。
嬉しいのか、悲しいのかも分からないけれど、今は流石に少しだけ嬉しそう。


「おめでとう。良かったね」

『あー。でさ、お前も来いよ』

「うわ、命令形」

『うっせぇ。轢くぞ』


幾ら経っても、癖とも言えるその毒舌は変わりないようで安心した。
だって、これで毒舌までなくなっちゃったら宮地じゃないみたいだし。
宮地が慣れた様に式場と式の始まる時間を告げる。それを近くにあった紙にメモしながら聞いた。


「緑間君とか、高尾君とか、も来るの?」

『ん。結構来るみてぇだけど』

「ふーん、そっか」

『お前は絶対来いよ。来なかったら刺す』

「うん」

『聞いてんのか?』

「うん。行くよ。当たり前でしょ。親友だもんね!」

『ばーか。親友じゃねぇっての。埋めるぞ』

「うん、うん」


やっとのことで電話を終えて携帯から耳を話す。
泣くかと思った。というか、泣かなかった自分を褒めてやりたい。
泣かないように、頬を一回だけ大きく叩く。
パン、と響いた音は一人暮らしには大きすぎるほどの音だった。






   △




式、当日。
私は淡い色のドレスを来て式場へと行った。
履き慣れないヒールがカツカツと音を立てている。


「あ、名字先輩じゃん。お久しぶりっす!」

「高尾君!久しぶり!緑間君も」

「お久しぶりです」

「先輩、見ないあいだにすっげー美人っすね」

「褒めても何も出ないよ?でも、ありがと」



照れくさくなって笑う。高尾君もあの頃と変わらないに、へら、とした笑顔。
緑間君も変わらずラッキーアイテムは持ち続けているみたいだ。
それから他愛もない話をして笑った。
きっと、後でたくさん泣くことになるから今は、今だけは笑っておかなくちゃ。


「なんか、」

「ん?」

「宮地先輩と名字先輩って結構仲良かったし、オレ、てっきり宮地先輩は名字先輩と結婚するんだと思ったんすけど…」

「あはは、それはもう仕方ないよ」

「そうっすよね〜」



悪気なく言った彼に思わず笑いそうになった。
私だって、出来ることなら、そうなりたかったけど。
でも、関係が崩れるなんてやだから。崩れるくらいなら今のままでいい。


やっと始まった式は、それはそれは、静かに行われた。
新郎姿の宮地は何処かぎこちない様子だったけど、それでも、幸せそうに笑っている。
幸せそうで何よりだ。幸せそうで良かった。
ずっと気になっていた新婦さんも綺麗で、笑顔が素敵で、優しそうな人だ。
これから宮地は、あの人と笑い合って支え合って喧嘩もして、愛し合って生きていくんだろうな。

溢れそうになった涙をまた堪えた。








「宮地」


式が終わってから宮地の元へと挨拶をしに行った。
宮地、というのも可笑しい。だって、新婦さんも宮地、なんだから。


「あー名字か。」

「おめでとう」

「…おう」

「今くらい、素直に有難うって言いなよ」

「いいだろ、別に」



笑え。まだ、泣いちゃ駄目。笑え。

脳にそう命令したのに、脳は言う事を聞いてくれなかった。
おめでとう、と言った時の宮地の表情が目に焼きついて離れずに目から涙が溢れ出てくる。その涙は止まることなく、流れ続けた。



「し、幸せに、なんないとっ、……轢くからね…っ!」

「ばーか、こっちの台詞だっての。あと、パクんな。轢くぞ」

「……っ、や、っぱ、宮地だね」

「ったりめーだ。馬鹿」

「馬鹿、って二回言った…」







ふへへ、ふへへと、
気味の悪い笑顔を作りながらその場を後にする。

幸せになってね、なんて。
心の奥底ではそんなこと思っていないくせに。
気持ちを伝えておけばよかった、なんて後悔しても、もう遅い。

我武者羅に走っていると、足を捻って転んだ。
周りに人が居なくて良かった。



「好きだよ、宮地…!」



惨めに転んだその後に、
初めての告白をしながら見上げた空は、皮肉なほどに晴れ渡っていた。




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