Hand



太陽の日差しが強い昼頃、私はかれこれ3時間近く外にいた。この光景を見れば征十郎は室内にいろと言ったはずだ、って眉を寄せて怒るんだろう。でも私はそんな瞬間が好きだったりする。


「やはりここにいたのか。…室内にいろと言ったはずだが」


部活が終わったのか外に出てきた征十郎は、暑い体育館にいたせいかまぶしそうに目を細めた。少しだけ外れてしまった予想に残念に思いながらしゃがんでいた腰を上げる。ずっと同じ体勢だったからか体が痛い。


「名前、俺の言うことが聞けないのか」

「良いじゃない。外にいる方が落ち着くの」


目に痛いぐらい強烈な赤が風に揺れた。

征十郎はわかりやすいほどに不可解だと顔を動かして、私との距離を一歩つめる。その腕が私に向かって伸びて、痛いぐらいの力で頬をつねった。予測不能な動きについていけず、何度か瞬きを繰り返す。


「…何してるの?」

「なんだ、案外普通に話せるんだな」


そう笑った征十郎は満足そうに手を離した。でも意味がわからない。征十郎は時々ひどく不思議な行動を取るけれど、今回のは本当に理解できなかった。
聞いてもただ笑うだけで、なんでもないとまっすぐ見られてしまうから何も言えない。その赤い目はどこまでも澄んでいてどこか苦手だった。まるで私が彼に似つかわしくない感覚に陥るのだ。それは事実かもしれない。でも征十郎はそう思うことを許さないだろう。


「名前は考えていることが顔にでやすいな」


そう言って征十郎は私の頬に手を当てて、勝利を掴むその手で安心させてくれた。何度だって救われて安心させられて、どんどん深みにはまっていくのだろう。征十郎の手に支えられるという錯覚に。

ああ、好きだな。

そうして再確認するんだ。彼への感情もここにいる心地よさも安心感も、全部。胸に広がる焦燥なんか打ち消して。


「なんだい?」


一人笑う私に征十郎は首を傾げて見せた。他人にはあまり見せないそんな仕草でさえ私を幸福に導いて、一人幸せを噛みしめる。


「なんでもないよ」

「そう。なら良いんだ」


眩しいぐらいの鮮烈な赤が目を焼いた。




back