Holiday



「おい、見ろよ!!」
「え、なに?」
「でっけぇのとった!」
「うわああ!ホントだ!おっきい!!すごいよ!」
「すげーだろー」
「すごい!すごいよだいき!」
「へへ、オレ将来、はんたーになるわ!」
「うん!おうえんしてるね!」







なーんて、昔は可愛かったなぁ
あの頃は私も大輝も純粋でよく遊んだものだ
とっても可愛かったなぁ。子供って天使だ
ていうかハンターってなんだ、ハンターって


「すっかり、と変わったな」


分厚い本のページをぺらり、とめくって
ベッドでグラビア雑誌を見ている大輝に目をやる
私の懐かしむ声は聞こえないらしい
それくらいにグラビアが好きなのかこの変態

幼馴染の私達の休日といえば
昔はザリガニ捕りにセミ捕りにクワガタにカブトムシに
終いには森の中へと入って「ハンター参上!」と叫びながら駆け回ったり、
そんな休日だった


今となっては休日を共に過ごすことも珍しく
今日のような一緒に過ごす日だってそれぞれ別行動なわけだ
もはや一緒にいる意味もない


(グラビア、とか。馬鹿馬鹿しい)


堀北マイってそんなに可愛くないよー。
と叫びたいのを堪えてペラリ、とページをめくる

さっき、母親が大輝と食べろ、と持ってきたケーキは
このくっそ暑い温度で溶けてしまいそうだ。すでに融解は始まっている


クーラーも効いているのかわからない暑さの中で
窓の外へちらり、と目をやった
入ってくる光はどうにもこうにも眩しい



「ザリガニ、居そうだなぁ」



昔、大輝と一緒にザリガニを釣った池が脳裏に蘇る
私の呟きが耳に届いたらしく大輝はグラビア雑誌から目を離して何言ってんだ、と問いかけてきた


「昔のこと思い出してたんだけどさ、よくザリガニ獲ったよね」

「あー、そういえばそうだっけな」

「あの頃はハンターになるんだーって可愛かった大輝が…
 今はこんなエロガッパみたいなことになっちゃって…」

「んだと!誰がエロガッパだ!」

「え、大輝だけど?問題ある?」

「大アリだつーの!ばぁか」

「アンタには言われたくないし。
 数学13点だったくせに」

「は、はぁ!?な、何で知ってんだよ」

「さつきに聞いたー」

「あのやろ……!」


13、とか逆にすごいよ。阿保の天才じゃん?
と呟いて本に目を戻す
あと3分の1ほどで読みきれそうだ

大輝は図星だったのか返す言葉もないらしい
唸ったあと負け惜しみのように話し始める


「お前だって昔は可愛かったのによ、今じゃ本ばっかり読みあさって」

「グラビアよりマシだし。文学は芸術よ?」

「グラビアも芸術だろ」

「エロガッパ」

「うっせえな!!貧乳!」

「んだとお、コラァ!!私は貧乳じゃないし!!」

「巨乳でもないだろーが」

「よし、表出ろお前」



拳をゴキゴキと鳴らす
大輝に喧嘩で勝ったことは一度もないけど言葉で負かすのは大得意
つまり、暴力的な喧嘩では勝てない
じゃあ、なんで表出ろとか言ったんだよって話だけど

大輝は堀北マイのグラビアをベッドの上に置いて立ち上がった
寝転んでいたせいでシーツがぐちゃぐちゃになっている




「なに、どっか行くの?帰るの?」

「ザリガニ、釣りに行こーぜ」



ニカ、と浅黒い肌から歯を覗かせて大輝は笑った
それはあの幼い純粋な頃の無邪気な笑顔



「…仕方ないなぁ」



読んでいた分厚い本を机の上に置いて私も立ち上がった
大輝が急に言い出して私が仕方ないな、と受け入れる
昔と同じような流れを私は望んでいたのかもしれない



「じゃ、行きますか!!」



夏の日差しがさんさんと降り注ぐ部屋を飛び出て
私達は二人笑いながら外へと出て、溶けてしまいそうなほどの直射日光を受けた




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