▼Sweet 「わりぃんだけど、今そーいうのは無理なんだよねー」 頭上から降ってきた言葉は、またかと言いたくなるくらい良く聞きなれた言葉で。ぱたぱたと可愛らしい足音を聞いてから、ぱたんと本を閉じてゆっくりとスカートに付いた葉や枝を払って立ち上がった。 昼休みももう終わりそうな中庭には軽く体を伸ばしている高尾と食後の読書タイムを邪魔されて超絶不機嫌な私だけ。 「おー名字じゃん」 真ちゃんみたいに眉間に皺寄せてどうした、なんて言葉は無視だ。ちくりとする胸の痛みなんかも、もちろん無視だ。ばかやろー。 「相変わらずモテるね」 「まーね」 「だからってここで告白を受けるの止めてよ」 「どこだっていーじゃん。それにさ、誰かさんが俺の告白受けてくれたらこんな風にならないのになー」 「…」 ちらちらとこちらを見ながら頭の後ろで腕を組む高尾を結構根に持つタイプだな、と思い直して軽く睨んだ。 確かに、二ヶ月前にやはり今日と同じように昼食後に本を読んでいたら高尾がやって来て「好きだから付き合ってよ」とかるーい感じで言ってきた。 あのバスケ部のレギュラー様からの告白なんて、罰ゲームだろうと判断した私は「悪いけど、そういうのは無理」と断った。 まぁ高尾の事は嫌いじゃなかったけど。クラスメイトとしては好きな方だったけど。 まさか、本気だったとは知らなかったから。 その後、緑間君が「高尾が気持ち悪いほど落ち込んでいる」とわざわざ言いに来たので訳を聞いてみると、あの告白は罰ゲームなんかじゃなくて、高尾の本心だったらしい。 絶句する私に「訂正するなら今なのだよ」と眼鏡のブリッジを上げて緑間くんはさらっと言い放ってくれたけど、今さらなんて訂正すればいいのよと頭を抱えた。 結局何もしないまま時間だけが過ぎてしまい、相変わらずモテる高尾は嫉妬してくれ、と言わんばかりに私のいるそばで告白されてる。 「そう言われても…」 視界の端に高尾の靴を捉えながら俯けば「俺の事、嫌いじゃないでしょ」との声に自信過剰なやつ、と思うと同時に好意を抱いている、なんて悟られたくなくてなんだか顔を上げることができなくなってしまう。 高尾の本心を聞いてから、何となく高尾に目が行くようになって、豪快に笑うところだとか友達にすっとさりげなく手助けするところとか、素敵だなと思う自分自身に一番戸惑っていた。 きっと、たぶん高尾に恋した女の子たちも同じように惹かれていったのだろうな。 私もその一人になってしまったんだろう。 「もう一回言うけどさ、俺マジで名字の事好きなんだよ。だからさ、付き合ってよ」 顔を上げれば切れ長の真剣な瞳とぶつかった。 ああ、これは覚悟を決めなければいけない。 ちゃんと向かい合わなければだめなんだ、とわかった。 いつの間にか好きになってしまったのだから。 「私で、よければ」 絞り出すように口を動かせば「よっしゃ」という声と共にぎゅっと抱き締められて、高尾の心臓の音が速いことに気が付いた。 「高尾、心臓の音速いね」 「まあ、緊張してますからー」 いつも飄々としているのに。 「意外だね。でもそういうところ好きかも」 「…今そーいうこと言うの、ずりーよ」 ため息を付きながら抱き締める腕の力を強めて言う高尾にくすくすと笑いを漏らせばもう一度「なんだよ、もう」と拗ねたような声が頭上から聞こえてきた。 胸に顔を埋めるように背中に腕を回せば、私って結構高尾にはまってるな、なんて改めて自覚して「高尾の事好き」と今の気持ちがするりと口から零れた。 「マジ、ずりー」 「こんなに好きにさせたんだから覚悟しろよ」なんて声にそれは私の台詞だよと思いながら目を閉じた。 (なんてずるいひと) back |