Holiday



(あ、いた)

心の中でそう思えば何時だって自分より待ち合わせ場所に先に着いている彼女。
自分も相当早く、15分くらい前に着いてはいるのだが…と後から着いた彼氏はいつものように彼女のそばに寄った。

「お待たせしました」
「あ!テツヤ君!んーん、待ってないよ!」
「でも、今日も名前さんは僕より先でした」

よく言えば大人しい、わるく言えば目立たないテツヤ、黒子テツヤは崩れない無表情で、明るい声と笑顔が特徴の彼の彼女である名前に少し寂しそうな声をかけた。

「私は待たせるの嫌いなの!だからいいんだって!」
「でも、」
「それにね、人の往来が激しいといくら私でもテツヤ君をすぐにはみつけらんないよー」
「それもそうですね…」

時折気付かれない事に不満があったりもしたがここまで自分の影の薄さを怨んだことがあっただろうか、黒子は少し悩ましげに眉をひそめた。

同い年の彼女はいつだって自分より大人びていて社交的で、テツヤは名前のそんな所に惹かれたのだろう。
しかしいつまでたっても感じる何気ない距離感にテツヤは少し不安を抱えていた。

「さて、行こうか!」
「遊園地なんて久しぶりです」
「うん、私も!」

待ち合わせた場所から暫く歩くと大型遊園地があり日曜ともなれば子連れの家族や自分達のようなカップルで溢れかえっていた。
チケット売場に並んだ2人、チケット売場のお姉さんと会話してチケットを買ったのは名前だった。

「いつもすみません…」
「仕方ないよ、今だってお1人ですかって言われちゃったし、こういうのは私の仕事!」

両腕をガッツポーズしてにっこり笑った名前だったが、黒子はそういう事じゃない、とまたも眉を下げた。

それからアトラクションに入る度に名前が黒子をリードする、といったような場面が続き、黒子もどうしてこんなに自分はコミュ力がないのかと自分を怨んだ。

影が薄いのが悪いのではない、大きな声を出す努力も、名前より先に行動する行動力も…全ては怠ってきた自分が悪い、こんな自分と名前は一緒にいて楽しいのかそう思っていたのだ。

「わぁ!!」
「名前さん!?」
「いててーまたやっちゃった!」

えへへ、と笑う名前の膝には血が滲んでいた、名前は有り余る行動力のあまりよく転ける。
黒子が気をつけていても転けるし仕方ないから絆創膏と消毒液はかかさず持っている、それは今日も例外ではなくて慌てて応急処置をする。

「いつも気をつけて下さいって言ってるでしょう」
「ごめんね…でもテツヤ君は何でも器用にするよね、いつも助かってます!」
「はい?」

何の事を言われたのか理解できず素っ頓狂な声をあげてしまった黒子に名前は構いもせず続けた。

「私、大雑把だからさ待ち合わせ場所とか決めてくれるのテツヤ君だし、怪我だってすぐ気が付いて絆創膏くれるし…よく見てるなって気付くなって思うよ?」

それを聞いた黒子は胸のあたりが熱くなってそれから頭を打たれたような感覚になった。
いったい何を悩んでいたのだろう、何も心配することは無かったじゃないか。
自分が彼女を支えて、それで彼女が自分を支える。
お互い居心地が良いから一緒に居るのだと先の名前の言葉で黒子の顔は幾分か晴れ晴れとすることになった。

人前が得意な彼女と苦手な自分。

大雑把な彼女と細かい自分。

足して割ったら丁度いい。





「ナイスアイディアだよテツヤ君!」
「いったい何の事ですか?」
「ソフトクリーム!バニラとイチゴ!どっちも食べたいから!2個買うの!」
「ソフトクリーム……?」

一体自分が名前から意識をはずした瞬間に何があったのだろう。
黒子は目を丸くして頭をフル回転に動かした。

「足して割ったら丁度いいって!」
「声に出てましたか?」
「ソフトクリーム2個買って半分こしようって言ってくれたんじゃないの?」

急にしょんぼりする名前に黒子はそういう意味じゃないと思いつつも。

「そうですよ、名前さんの好きなもの1個ずつ2個買いましょう!」

そう言った黒子は笑顔を湛えていた。




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