Friend



幼馴染み。そんな可愛いもんじゃない。ただの腐れ縁だ。
ただ、物心ついた頃から一緒にいることが当たり前で。
お互いに一番の友達だと言える間柄ってだけ。
だなんて、思ってもないことを言い続けてきた。



「何でいるの?」
「まあまあ、いいじゃないっスか」

黄瀬はへらりと笑うと、断りもせずに人の家へと上がり込んできた。
勝手知ったるといった風に、私の部屋へと向かっていく。掃除してないんだけど。

「お茶とお菓子は出してくれないんスか?」
「不法侵入者に出すものなんて何もありません」
「ヒドッ」

人のベッドに勝手に座った黄瀬は、相変わらずへらへら笑っている。
ベッドの上に脱ぎっぱなしの制服と靴下がある。まあ、涼太だし別にいいか。

「だらしないっスねー」
「うるさいな。あんたが突然来るからいけないんでしょ」
「部屋着が中学のときのジャージって、女としてどうなんスか」
「誰に見せるわけでもないんだからいいの」
「オレ見てるんスけど」
「涼太だから別に」

黄瀬の手からスカートを取り上げる。
ハンガーを取り出して、制服をかけていく。
その間もビシバシと感じる、黄瀬の視線。

「・・・で?」
「え?」
「何があったの」

ぴくりと黄瀬の顔が引きつった。
多分この程度の表情の変化に気付けるのは、私くらいだと思う。 それくらいずっとこいつのことを見てきたから。
制服をハンガーにかけながら、チラリと黄瀬を見る。
やっぱり、いつもと様子が違う。
そもそも、突然家に来るなんて、よっぽどのことがあったんだって言ってるようなものだ。
中学の途中から、バスケだモデルだと忙しそうにしてたから、私の家に来る暇なんてなかったみたい。
それは今もそうなんだけど。なのに今日来たってことは、つまり何かあったってことでしょ。

「やっぱり名前っちには、すぐ見破られちゃうっスね」

黄瀬が、何かあったときに一番に頼るのが私だということが、すごく嬉しい。
そんなこと、絶対に言えないけど。
黄瀬は視線を落として、軽く笑う。

「今日ね、クラスの奴に、名前っちと付き合ってるのかって言われたんス」

ぴたりと制服をハンガーにかける手が止まる。

「何て答えたの」
「友達だって言ったっスよ」
「そう」

制服をかけ終え、黄瀬に正面に向き直る。
黄瀬は、困ったような顔をしていた。

「ワケ分からないっスよね。オレと名前っちは、そんなんじゃなくて、友達だし。うんと、ただの友達ってワケでもないんスけど。家族・・・ってほどでもないし、なんていうか、」
「涼太?」
「一番大事な友達だし、幼馴染みっスよね。それ以外の何者でもないんスよ」
「涼太」

ばちりと視線が合う。
今にも泣き出しそうな、そんな表情。

「ね?そうっスよね?名前っち」

そう言った黄瀬の顔は、何かに縋っているようなものだった。
ああ、そうか。
黄瀬は、この関係を壊すのが怖いんだ。
友達という関係を壊してしまうのを、恐れている。

「ね?」

なんて弱いんだろう。
関係を壊すのを恐れて、それに縋るその姿の、なんと弱いことか。
弱く、そして愛おしい。
そっと黄瀬に近付く。

「そうだね」

ベッドに座る黄瀬を、ぎゅっと抱き締める。
ぴくりと震えたのも気にせず、腕に力を込める。

「涼太は、大事な大事な友達だよ」

腕の中で、黄瀬が安心したように息を吐いたのが分かった。
とっくに友達だなんて思ってないんだけど。
関係を壊すのが怖いのは、私も同じだ。

「そっスよね。名前っちは大事な友達っス」

黄瀬の言葉を聞いて、より一層腕に力を込めた。

fin.




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