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「うるさいっス」

黄瀬くんがさっきから一生懸命本読んでるもんだから暇になって黄瀬くんに話しかけたらこの言われよう。だって黄瀬くん普段本なんて読まないじゃん。

「黄瀬くん何読んでるの?」
「関係ないでしょ」

一瞬だけこっちに視線を向けたかと思ったらすぐ逸らしてまた本に集中し出した。黄瀬くんがそんなに夢中になるなんて相当楽しいんだろうなあ。それとも黒子くんから借りたのかな。

「黒子くん最近見ないね」
「そりゃ違う高校なんだから当たり前っスよ」

なんでそう話を終わらせたがるかな!再び静かになった部屋で黄瀬くんが本を捲る音だけが聞こえてきた。

「きーせーくーん」
「うるさいっス」
「おこおこ」
「キモいっス」
「ぷんすか」
「しね」

黄瀬くんひどい!仮にも彼女だよあたし!あたし!彼女!心で嘆いても何も変わらないんスけどね。黄瀬くんフレンドリーで温厚で優しいのにあたしにだけはそれの真逆なんだもんなあ。慣れたけど。

「あ、そうだ黄瀬くんこの前の雑誌のさ〜特集あったじゃん」
「……」
「それで初恋高1って、遅くない?」

あるファッション雑誌で5ページぐらい黄瀬くんの特集があったんだけどそれのアンケートで初恋は高1って書いてたんだよね。今じゃん。まさに今じゃん。だから黄瀬くんもしかして他に好きな人が居るから、だから冷たいのかなって。

「黄瀬くんの初恋の相手って誰?」
「っみ、見たんスか、」

え、待って図星?え?マジ?待ってちょっと泣いていいかな。いやほんとに冗談抜きで泣きそう。

「な、なんかごめん黄瀬くん、あたしか、帰る、うん、帰るよ!」
「は、何で」
「何でってそりゃ、ねえ?」
「意味わかんないっス」
「…だって黄瀬くんあたしに冷たいし毒舌だしあたしの事嫌いなんでしょ?他に好きな子居るんでしょ?」

そう言ったら黄瀬くんはちょっとだけ眉間に皺を寄せて本を閉じて床に置いた。

「き、黄瀬くん?」
「アンタ俺が好きでもない人部屋にあげる軽い男に見えるんスか」
「いいいいや、そんなことは、ないけど、」

どうしよう黄瀬くん怒ってる黄瀬くん怒ってる。あたしもそこまで鈍感な訳じゃないし今の黄瀬くんの言葉で予想は出来た。自分の勘違いだったんだ、って。

「名前」
「な、なに?」
「雑誌の初恋の女の子っていうの、アンタっスよ」
「…は?」

え、いやちょっと待って。嘘だ。あたしが黄瀬くんの初恋とか恐れ多すぎて黄瀬くん怖い。それに黄瀬くんあたしに冷たいじゃんめっちゃ口悪いじゃんそれなのにあたしが初恋とか嘘だろ。

「初恋っスから、どんな態度とっていいか、分からないんスよ、」
「ちょ、え、黄瀬くん顔赤」
「うっさい」

どうしようどうしようどうしようもなく嬉しい。黄瀬くんの初恋があたしとか本当泣きそう。

「口悪いし冷たいし他の女の子と全く扱いが違くて目見てくれないのに、それでも、それでも、」
「好きっスよ、アンタの事」
「き、黄瀬くん〜あだじもずぎ〜」
「泣くなよ」

笑いながらあたしの頭を撫でてくれる黄瀬くんがすごく優しかったから今までの不安とか全部飛んでった。

「でも、あと少し優しさ欲しい」
「…頑張るっス」




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