Holiday



今日暇? よかった、俺も暇なんスよ。だから一緒にどっか行かないスか? 姉ちゃんにスイパラのチケット貰ったんスよ! 甘いの好きでしょ? ね? ほんと? じゃあ今から迎えにいくッス!

……以上、俺の妄想、じゃなくて、イメトレだ。練習、練習。
本番は今から、名前っちに電話をかける。

けっこうツンツンした子だけどああ見えて甘いお菓子とか大好きだから多分めちゃくちゃ喜んでくれるハズ!
というわけで早速誘ってみる。

ぷるる、という通話音をぶちりと切ってもしもし、という名前っちの声に妄……イメトレ通り、誘ってみる。

「あのね名前っち、今日暇? 実は俺……」
「ああ、悪いけど私超忙しいんだわ。今日私がやってるネトゲのイベントがあってさあ」
「あ……そッスか……」
「うん。またね」
「うん……またね」

通話時間15秒。なんという事でしょう。
あっさり断られてしまった。現実は厳しい。俺に優しくない。
彼女は甘党以前にゲーマーだ。

ばったんとベッドに倒れ込んで、もうこのまま不貞寝しようかなんて思った時、握ったままの携帯が震えた。
流れ出したメロディーは彼女だけに設定した物なので慌てて出た。

「もっ、しもし!」

どもった。し、裏返った。最悪だ。

「ああ、黄瀬?」
「ハイッス!」
「もしかしてなんか誘ってくれるつもりだった?」
「えっ、あ、いや、大した事じゃないんで……!」
「そう? ならいいんだけど。でもつまりあんた暇だよね?」
「え、うん」
「うちPCさデスクトップとノート両方あるからあんたもうちに来てやんない? 新規紹介したら私の欲しいアイテム貰えるんだけど」
「えっまじッスか!? 行くッス! 今すぐ!」
「はーいじゃあ待ってるから〜」

携帯を握りしめて財布を引っ付かんでドタバタと階段を駆け下りた。姉ちゃんにうるさいと怒鳴られたがお小言を聞くのは後だ。
名前っちの家まで全力疾走で多分20分かからない。そうだ、ホテルのスイーツには適わないけど、彼女のお気に入りのケーキ屋でいくつかケーキ買っていこう。そんで、2人でケーキ食べながらゲームしよう。

「名前っち!」
「いらっしゃーい、準備出来てるよ〜」
「ケーキ買ってきたッス!」
「えっほんと!? やった! 黄瀬大好き!」

スイパラに行かなくても、二人並んで液晶を見つめるだけでも。
この一言が聞けたなら、今日は理想通りの過ごし方だ。




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