Sweet



高尾が最近わたしに冷たいの、気のせいじゃないと思うの。この間だってせっかくのオフだったのに緑間と先帰っちゃったし。そりゃあバスケの話したいのはわかるけど、せっかくのオフの日くらいバスケから離れてくれたっていいんじゃないかなあ。でも高尾がそうなっちゃったのは、普段のわたしが彼に素っ気ない態度をとってしまうからだと思うから、結局はわたしのせいかもしれない。今さら後悔するなんて。ばかだね、わたし。

「高尾、それなに読んでるの」
「ん?…ああ月バス」

うん知ってるよ、高尾がすきな雑誌くらい。話す口実つくっだけなんだよ。またバスケかよ…!とか思ったけどこんなんでめげるものか。今日はせっかくお家に遊びに来たっていうのに、高尾はわたしのことなんて放っておいて床に座ったまま雑誌ばっかり読んでいる。ううやっぱ冷たい。不審に思われない程度にそろりそろりと近付いて横から雑誌を覗き込んでみたけど、高尾は知らんぷりだ。こっちに少しくらい雑誌かたむけてくれたっていいのに。こっそりと彼の顔を横目で見ても表情から何も読み取ることはできなかった。ああかっこいいなぁ、ってそうじゃなくて。

「あ、キセリョでてんね」
「…そうだな」

あ、え、わわわまたやってしまった。高尾横にいるのに他の男子の話しするなんて最低だ、わたし。彼の顔をとてもじゃないけど見れなくて、うつむいたまま小さく息を吐いた。もう雑誌の内容なんて全然頭に入ってこない。高尾に少しでも近付きたくてバスケのこといっぱい調べたから今のわたしにとって、この雑誌はおもしろいはずなのに。やっぱり、このままじゃだめだね。

「高尾」
「んーなに?」
「なんで、最近、つめたいの」

は?って目を見開いてやっとこっちを見てくれた高尾は今度は訝しげに眉をひそめて、それだけでわたしの心臓はぎゅっと縮こまった。こわいよ、いやだ、嫌われたくない。わたし高尾のこと、すっごい好きなんだよ。

「ね、おねがいだから、嫌いにならないで」
「…あーもう、限界」
「へ」

反応するより早くぐいと腕を引かれて、そのまま温もりの中に閉じ込められたから一瞬なにが起きたか分からなくて、でも高尾のにおいがするから抱き締められているんだろうとやっと気が付く。恥ずかしくて恥ずかしくて彼の腕をたたくと、ぎゅうぎゅう余計に力を込めてきて呼吸がうまくできない。だんだん苦しくなってきたから名前を呼ぶとやっと離してくれて、でも次には目の前に彼のきらきらした満面の笑みがあって心臓がどんどこ騒ぎ出した。いろいろ急展開すぎて付いていけないよ。

「いじわるしすぎた、ごめんな名前」
「…ん」

なんだ、やっぱりわざとだったのか。ほっとする気持ちと共に、わたしが原因だとわかっていても少しだけ怒りも湧いてきた。やっぱりずるいよ、高尾は。

「…高尾なんてしらない」
「わるかったって…!」

そっぽを向いてしまったわたしに高尾は焦ったように顔を覗き込んできたから、するりと彼の頬に手をそえて触れるように口付ける。高尾は不意打ちに驚いた顔をして、それから今度は彼がわたしの頬にやさしく触れて唇を塞いだ。一瞬だけ見えた、その照れたようなはにかみで許してあげるね。


∴愛したがりと愛されたがり




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