Sweet



私の彼氏は、とても酷い人で
それでもって賢くって運動も出来て
バスケでは「無冠の五将」なんて呼ばれてるらしい

酷い人、と一纏めに言っても
先生や先輩の前ではちゃんと好青年を演じているし
私の友達の前でも胡散臭い笑顔でヘラヘラと話している

友達には「いい彼氏さんだねぇ〜」なんて嫉妬混じりに言われたり、
「よく、付き合えるね」なんて皮肉っぽく言われた


それが、彼と付き合っていて面白いところの一つでもあるんだけど




ザクリ、

少しばかり残酷な、アクション映画でいうなら、そう。
人に刃物が突き刺さった時の音のような。そんな音を立ててフォークがイチゴに突き刺さった


「お前、」


隣で静かにパンを食べていた花宮がその様子を見て怪訝そうに顔を歪める



「ん、何?」

「結構、いい趣味してんのな」

「……そうかな?」

「人殺せそうだぜ?お前」

「花宮に言われたくないし」



酷い人だ。
それこそ、同じ赤い血が流れてるのか、と疑うくらいに
血も涙もない、というのはこのことを言うのだろう

フォークに突き刺されたまま、赤い果汁を流すイチゴを口に運ぶ
口の中に広がるその味は思ったよりも


(甘い)


ショートケーキの上に乗ってたからイチゴにクリームがついてしまっていたせいもあるのだろうか。
それにしても甘い、甘すぎる

あまりの甘さに「うぇ、」と舌を出すとそれを見て花宮が
意地悪く笑った



「ふはっ、
 甘いもん嫌いなのに、ケーキ貰うからそうなるんだよ。ばぁか」

「仕方ないでしょ。誕生日に、って貰ったんだから
 断るのとか、悪いじゃない」

「それが、性格悪いっつってんだよ」

「だから、花宮に言われたくないってば!」



イチゴがなくなっただけのショートケーキ
先程の甘さを思い出しただけで吐き気を催したが
それを堪えて一口食べた



「つか、」

「何よ」

「女って甘いもん好きなんじゃねぇの」

「皆が皆、好きなわけじゃないよ。
 嫌いな子だっているし、ほらっ、私もそうだし」


口内に充満する甘さが
ベタベタとまとわりついて気持ち悪い


「恋愛だってそうでしょ?」

「はぁ、?」

「お互いの首を絞め合って、絡めて、離れられないようにして、
 それを“甘い恋だ”だなんて言って過ごすよりは」


興味なさそうに、それでも好奇心で溢れている
そんな矛盾の色がある花宮の表情に満足して笑った

彼も、甘いものは嫌いだと、言っていたから


「解り合えてると思ってたけど、実は違った。
 所謂、“苦い恋”の方が、十分魅力的じゃない?」

「ふはっ、最低だな、お前」

「花宮にそっくりそのまま、お返ししますー」


生クリームだけをフォークで取って口に入れる


(うわ、甘)


イチゴはそんなに甘くなかったのかもしれない
イチゴが酸っぱくてもこのクリームのせいでかき消されていたもかも

ねぇ、と花宮を呼びかけると
彼は嫌そうに顔を歪めて私を目を合わせた


「花宮にも、あげる」


はぁ?と言葉が発される前に
彼のネクタイを掴んでこちらに引き寄せる

唇に彼の体温を感じて甘さを彼に引き渡す


「どう?美味しい?」

「ゲロ甘ぇ、」

「…ふふっ、そうでしょー」


私の彼氏は、酷い人です
それでもって憎たらしく、血も涙もない
だけど、賢くて、格好良くて
そしてやっぱり、憎たらしい人です


でも、そんな彼氏、花宮真との日常も
まぁ、それなりに、楽しく悪くないものです




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