Sweet



がり、と。口の中に放り込んだ黒飴を噛み砕いた。
おいおいそんなに噛むなよ、なんて朗らかに笑う空耳がする。
そう、所詮空耳、私の脳内で勝手に作り出された妄想の一部に過ぎない。
その忌々しい妄想も一緒くたにがりがりと更に噛み砕き、遂には口の中で小さな欠片になって、私の体内に吸収されていった。

高一の春だった。幼馴染みのばかが面白い奴と知り合った、とやたらうきうきして言ってきた。あんたより面白い奴なんか見たことねーわよ、と鼻で笑い飛ばした。
だけど、また楽しそうにバスケをやり始めた彼に私も嬉しくなった。
それから少し過ぎた。夏になった。絶対見に来いよな、と何度も言うから、試合は全部見に行った。本人には口が裂けても言ってやらないけど、かっこよかった。

だけど、ある試合で、あいつは膝を壊してしまった。病院に駆けつけた私にあいつは、「大したことねえよ。ちょっとドジっちまった」なんて笑った。そのへったくそな笑い顔に腹が立って思わずつかみかかった。

「馬っ鹿じゃないの!? あんた私と何年の付き合いだと思ってんの!? 今更カッコつけようとなんかしてんじゃないわよ! ダサいとこもカッコ悪いとこも全部知ってるわよ! なんで……こんな時まで強がってんじゃないわよ!」
「……っ名前、」
「鉄平のそう言うところ大っ嫌い!」

言うだけ言って飛び出した。それから退院までの一年半、私は一度も見舞いに行かなかった。そんなに長い間会わなかったのは初めてだった。

思い出せば出すほど腹立たしい。また一つ黒飴を口に入れてガリガリと噛む。しつこいくらいの甘さが口の中に広がるのに、ふと窓ガラスに写った私は苦虫を噛み潰したような表情をしていて、それにまた更に口の中の塊を噛み砕くと。

「おいおいそんなに噛むなよ」
「! ……私の勝手でしょ」
「飴は舐めるモンだろー。俺にも一つくれよ」

ずいっと差し出された大きな手にポケットに入っていた飴を全部乗せた。

「なんだ、一つでいいのに」
「もういらない。甘すぎて食べてらんない」
「そうなのか?」

うまいのに、とボヤきながらカラコロ飴を転がすこいつは、一年半会わなかっただけで私が甘い物が嫌いなのを忘れてしまったのだろうか。それとも急に好みが変わったなんて思っているのか。
(人の気も知らないで)
私がどんなつもりでこんなものをずっと食べていたなんて、言いもしないのに気付くわけ無いのだけど、ひっそり心の中で毒吐いた。

「なあ名前」
「なに」
「俺、お前に会いたかったよ」
「なっ……!?」
「こんな会わなかったの、初めてだったよな」

なんか物足りなかった、と言って笑った。そして、やっぱり俺バスケが好きだ、とも。

客席最前列からコートを見下ろす。入場してきた締まりのない顔のあいつに、頑張れ、なんて小さく呟いた。
この試合が終わったら、私も会いたかった、と。言ってやるのも悪くない。




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