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“好きだよ”と、ただ一言、その一言が言えたらどんなに楽だろうか

いつもの帰り道、いつもの背中、目の前には青峰くん。幼い頃から一緒にいて、ザリガニ釣りとか蝉採り…時にはおままごとに付き合わせながらいつも一緒に遊んでたっけ。バスケにハマって、さつきちゃんと一緒に応援しながらその背中を見ていた。中学生の時に名を馳せる選手になって、そのままスポーツ推薦で高校に進学した青峰くんとは別に、あたしは別の高校に進むことになった。本当は同じ高校に進んで青峰くんの背中をずっと見ていこうと思っていた。でも親の意見と先生の推薦で別の高校に進学した。知らない学校、知らない人、怖くて仕方なかった。でも青峰くんがいつもメールや電話で励ましてくれたっけ…柄じゃないくせにそう言う優しいところは変わってなくて安心もした


「青峰くん」

「…おう」


それから青峰くんはいつも地元の駅から家まで送ってくれる。初めは偶然だと思った。たまたま青峰くんの帰りとあたしの帰りが同じだったんだって。でもどんなに遅くなっても駅で待っててくれて、雪が降ってる日に頭に雪を乗せながら“偶然だな”なんて言われた事もあったっけ…今となっては笑い話だけれどあの時はびっくりした


「…いくぞ」


あたしが来たのを確認すれば青峰くんは歩き出す。その後ろを3歩離れてあたしが歩く。いつものこと、いつもの風景。いつからだろう、青峰くんの隣を歩けなくなったのは。いつからだろう、素直に“好き”と言えなくなったのは。青峰くんを異性として意識したのはそんなに時間がかからなかったのに、想いを伝える事に時間がかかりすぎた。“好き”ただ一言、言えば良いだけなのに


「なぁ…」


前を歩いていた青峰くんの足が止まる。こっちを向いた青峰くんの髪が夕日に照らされて反射している


「…何?」

「お前、なんで隣歩かないんだ」

「あ、青峰くんが歩くのが速いから…」

「なぁ、いつからだ。いつから“大輝”って呼ばなくなった」


そう言われてはっとする。大輝と呼ばないのは青峰くんが遠くに行った気がしたから。あたしなんかが呼んじゃいけないと思ったから。なんで、なんでそんな顔するの?期待するじゃない、“好き”って言いそうだよ


「なぁ、何でだ」

「…それはね」


ああ、喉が苦しい。焼けてるみたいだ。言えない、息苦しい。君が好きで、好きで、でも言えないなんて…。俯いたら涙がコンクリートに染みた。泣いちゃだめ、青峰くんがびっくりするから、泣いちゃだめ…そう思って、出来る限りの作り笑いをすれば、表情を歪めた青峰くんが近付いてくる


「違うな。お前に言わせることじゃなかったわ」

「え?」

「好きだ」

「…え?」

「好きだわ、お前のこと」


抱き締められて呆然とする。好き?青峰くんがあたしを?両想い?そんなバカな。夢なの?夢?…夢でもいい。青峰くんの側にいれるなら


「夢じゃねぇよ」

「いはい」

「抓ってっからな」


“じゃあこうすれば分かるか”

そう言われた後、唇にほんの少しの暖かさがあった。慌てて口を押さえれば、照れたように頭を掻く青峰くんが見えた


「わかったか。ブス」

「…ブスじゃないも、ん」

「泣くな」

「あたしも、好き…」

「…そうかよ」


“知ってるけどな”そう言って笑う大輝は昔のままだった







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