Friend



運命の糸は蝶結びだと、誰かが言っていた。


「それ、森山だろ」

目の前で課題をやる笠松は、呆れ顔でそう返答した。

「そうだったかも」
「俺らにも言ってたからな」

そうだ、確かにそうだった。
「運命の赤い糸はだな、蝶結びで可愛く結ぶものだよ」
そのあとに「あぁ、でも名前には分かんないか」と言われたのでぶん殴ったのは言うまでもない。

「ったく、あんな恥ずかしいことよく平気で言えるもんだ」
「そんなんだから女子に免疫のない男子だなんて馬鹿にされるんだよ」
「うるせぇよ!」

ぎろりと睨まれ、私は降参の意味を込めて両手を軽くあげた。友人を睨みつけるだなんてとんでもない人ですね。そんなところも好きですが。

「森山も森山だぜ、こんなん渡されちまったし」

と、笠松が机の上に取り出したのは、一本の毛糸。しかも赤色。

「運命の赤い糸?」
「らしいぞ」

私は思わず噴き出した。それに対して不服そうな顔を見せるので、「ごめん」と小さく謝る。

「笠松は、そういうの信じる?」
「は?」
「運命の赤い糸」

軽い冗談だった。
でも笠松は真剣に考え始めてしまったから、その顔を見つめて、あぁやっぱり好きだなと実感する。
いつだってそう。彼は私の言葉を真剣に聞いてくれる。そりゃあシバかれたりもするけど、最後にはちゃんとした答えをくれる。そんな、彼が好き。
それでも私たちはお友達。
赤い糸とは無縁の存在だ。
なんて悲しいお話でしょうね。

「そうだな、あってもいいと思うぞ」

赤色の毛糸を手に取ると、もう片方の手で私の左手を優しく引っ張った。

「俺は、名前に会えたこと運命だって言える」
「笠松?」
「赤い糸で繋がれてればいいと思う」
「……」

不器用な彼は、私の小指に糸を結ぶ。その蝶結びの不格好さといったら。

「もし繋がってなくても――繋げてやるよ」

そして自分の指にももう一方を結ぼうとする。
口まで使って、真剣に。

「それはもう、解けることはないね」

そして私たちは恥ずかしいのに耐え切れず、笑うのだ。

「やっぱりお前が結べ」
「不器用さんだね」





back