Friend



男女間の友情は成立するか否か。
長年どこでも持ち出されては議論され、明確な答えが出せぬままなあなあで終わる。
ちなみに私は、長年否定派である。

「否定派だったんですか」
「うん。否定してるね」

放課後、雨の為に薄暗い図書室で。向かい合ってハードカバーを広げながらの雑談での私の言葉に、黒子は印象的な大きな目をぱちりと瞬いた。
そうして、ムッとした表情を作る。

「それじゃあ君のことを友人だと思っていたのは僕だけですか」
「そうだね。黒子は確かに気の合う委員仲間だよ。友人だとは思わないけどね」
「今僕は名字さんが思っている以上に傷付きました」
「そりゃすまなかった」

しれっと言ってみれば、やや大袈裟に呆れた様子で溜息をついた。ちらりと視線だけを上げて見やれば、いつものなにを考えているかわからない目がこちらを見ていた。
黒子の手は、既にハードカバーを閉じている。

「君も中々偏屈な人ですね」
「今更だね。いいじゃない、黒子の事は人として好きだよ」
「それでも僕は君の友人ではない、と」
「うん」
「そこに一体どれほどの差があるんです?」

一見丁寧な言動に反して、黒子は意外とだらしのないところがある。まるで、"拗ねています"とでも言い表しているかのような少々わざとらしい顔で、どすんと閉じたハードカバーの上に頬杖をついた。

私の手許のハードカバーの中では、主人公である自称探偵が犯人を追い詰めているシーンなのだが、これでは読書に集中出来たものではないなと諦め、しおりを挟んで閉じた。

「逆に訊ねようか。君はなにを持って私を友人だと言うの?」
「その他大勢の知り合いより親しいと思っています」
「おおう即答しやがったな……」

そうだ。黒子テツヤとはそういう人間であったのだ。さて、どうやって反論しようか。

そうだ、例えばの話。私と黒子が大親友だとしようか。笑ってんなよ、例えばの話なんだから。更に私に恋人が出来たとするでしょう? 大親友の黒子が私に下心なんて抱くわけないし、私達は今まで通り仲良く過ごすわけだけど、恋人はそれが気に入らないの。

「実によくある話ですね」
「そう。更に話は飛躍して、実はその恋人はとても嫉妬深くて、黒子だけじゃなく他の女の子とすら私が仲良くするのも気が気じゃない」
「ちょっと待って下さい。その話の結論って」
「……性別でわけたり、友人や恋人なんて名前で縛ったつもりになるのは非常にナンセンスだよ。だってそのカテゴライズの根拠は人の感情でしょう?」
「はあ、まあ。そうですね」
「そんな曖昧な根拠で絶対的な答えを出す方が無理な話」

もう読書を再開しても良いか、と視線で訊ねてみれば。
また黒子はぱちぱちと瞬きをして、それから無遠慮にぶはっと噴き出した。

「成る程よくわかりました。それってつまり、君の意地ですか?」
「世の中にはハッキリさせない方が良いことも多いんだよ、黒子」

私の言葉にひとしきり笑った黒子が、ふと、晴れましたね、と窓の外の虹を指差した。




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