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深い藍色の空に淡く光る月にさよならをして、目を閉じた。瞼の裏に移るのは、悲しそうな宮地くん。彼のあんな表情を見たのは初めてだった。

ぜんぶ私のせい、なのかな。


宮地くんのばか。だいきらい。

一方的に私が告げた喧嘩の幕開けは月曜日。そこからずるずると、もう木曜日の夜中と思ったらたった今、日付が変わったので金曜日の朝。

“轢くぞ”という物騒な三文字は宮地くんの口癖だ。他にも“埋める”とか“刺す”とか。そしてあろうことか、私に向けて発せられたそんなことばの数々は“好きだ”とか“愛してる”とか、そういうことばの倍以上なのだ。
彼氏に毎日毎日、暴言を吐かれて嬉しい女の子がいるだろうか。甘いことばのひとつやふたつ、欲しいに決まっている。

そんな思いが爆発したのはきっと、日曜日に読み耽っていた少女漫画のせい。毎日ではないが、必要なときにはちゃんと愛の証明をしてもらえる主人公が羨ましくないと言ったら嘘になる。

だから私は間違ってなどいないと、そう思っていた。

それなのにどうして、こんなに毎日が真っ暗なの?
あの時の宮地くんの表情が頭に浮かぶの?
日に日に深くなる、目の下の隈。同時に膨らむ、言わなきゃ良かったという後悔。

なんとか心の整理がついたのは、その日の授業がぜんぶ終わってからだった。


こうして校門の前で宮地くんを待つのは、久しぶりだ。いつも2人で帰っていた私たちだが、この3日間は私が宮地くんを待たずに先に帰っていた。
スカートの中に入り込む冷たい空気に、近づいている冬の気配を感じる。
宮地くん、まだかなぁ。

「あれ?宮地サンの彼女サンじゃないっすか!久しぶりですね」

オレのこと覚えてますか?
目の前には、そう言って笑う黒髪の男の子。

「えっと確か…高尾くん」

「正解!覚えててくれて嬉しいでっす!あ、宮地サンならたぶんもうすぐ…「オイ高尾何やってんだ」

高尾くんの言葉を遮ったのは、紛れもなく宮地くんで。彼は笑顔で高尾くんの肩を組んだ。

じゃあ、お二人共お幸せに!
するりと宮地くんの腕の下から抜け出し、走り去る高尾くんの声が聞こえたような、聞こえなかったような。

「ったく、あのバカ尾。ほんとに何もされてねーか?」

「うん、だいじょうぶ」

宮地くんの「行くぞ」の一言を最後に、私たちから会話が消えた。無言のまま、歩き続ける。

「てゆーか、こんな寒いのに外で待ってて風邪でも引いたらどうすんだ」

ふいに、宮地くんが言った。
そしてその瞬間、私は気づいた。宮地くんの優しさに。
私よりずっと背が高い宮地くんはいつも、私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれていた。私は意地を張って、宮地くんを待たずに帰っていたのに、それでも今、私の心配をしてくれている。

「ごめ…ん、宮地くん。ごめんなさい…!ばかなんて言って、だいきらいなんて言って」

いつだって宮地くんは、その行動ひとつひとつに愛してるのサインを散りばめていたのに。それに気づかずに、私は…。

「や、オレが悪かったし。ごめんな。もう二度と“轢く”とか言わねー…っては断言できねぇけど、気をつける。それと…オレはちゃんとお前のこと、好きだから。」

世界で、いちばん。

ああ、そんなのズルい。宮地くんはわかっててやってるのだろうか。女の子はベタなセリフに弱いって。

「私も宮地くんのこと、すき。だいすき!…それにしても、今日の宮地くんは素直ですね〜」

「お前は一言多いんだよ!轢くぞ!!……あ」

私たちは顔を見合わせて、笑った。

「でもやっぱり、それがないと宮地くんじゃないや」



ウィークエンドララバイ


貴方のおかげで、今日は眠りにつけそうです。




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