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今日は、いつもと違う赤色のリボンを胸に飾った
このリボンは彼にもらったものだ。
「似合いそうだから」って。
そりゃあ学校指定のリボンは黒色だけど
今日だけは、この色をつけていたかった



学校は何時も通りに静かでもなく五月蝿すぎでもなくて、
優しい、ような明るい雰囲気が流れている

そんな中でもやっぱり彼は今日一日無表情。
質問されれば答えるし問いかけられても笑いかけられてもちゃんと反応する
だけど何処か儚い
儚い系美少年、と誰かが言っていたっけ?
その通り。儚くも美しい。そう散り際でさえ美しい桜
そんな花だと私は常常思うのだ












「まぁた、此処にいる」

かっこよく台詞を吐いてみる
夕焼けに染まる屋上に彼は一人、黄昏るように柵の向こうを眺めていた
私が話しかけたことによって、彼はこちらをむいて小さく答えた。
はい、と。


「好きなんだね。此処からの眺め」

「…………はい」


自然に持ち込もうと思ったのに
思い通りには行かなかった。
彼が…いや、黒子君がちゃんと私に言いやすいように雰囲気作りをしようと思ったのに
黒子君が変な間を開けるから。黒子君の馬鹿。困るのは黒子君なのに。

黒子君の口が中途半端に開いた
何かを言おうと空回りしたあと静かに閉じる

意気地なし。
最後まで意気地なし
ちゃんと言ってよ
これでも、覚悟は、してるんだから


と、毒づいてやりたかったがそれは出来なかった
だって、黒子君が今度こそは、とでも言う風に私を見たから。
そしてそのまま
黒子君の口から黒子君の声で言葉が出てきたから



「止めましょう。こんなの」


私の想像していたロマンチックな言葉とはかけ離れていたけど
黒子君の精一杯だと思うから、まぁ、いいかな。


「こんな、関係おかしいです
 ボク達、きっと気がどうかしてたんですよ、あの時は」

「もう、お願いだから止めましょう…
 君もこれ以上、苦しむなんて、駄目です」


そうだね。凄く可笑しいと思う。私も可笑しいと思う

黒子君とは付き合ってる
それは「上辺」だけの関係だ。
付き合ってるなんて言っても何もしてない
手を繋ぐことも抱きしめ合うことも口付けることも何も。
ただ付き合っていると言ってるだけの関係

あの日
私は振られた
黄瀬涼太にこっ酷く振られた
泣いて泣いて泣いて、心が潰れるかと思うくらいだった


そんな時に、黒子君が声をかけてくれたのだ
「大丈夫ですか」と優しい優しい声で
普通ならそこでコロッと恋に落ちるだろうけど、私は違った
慰め程度に付き合ってと、言ったのだ

黒子君はそんな私に同情してくれたのか何なのか付き合ってくれた
その関係が可笑しいと一番知っているのは黒子君だというのに



だからだろう。彼が今日私に関係を解消するように言ってきたのは。
このままでは彼も私も前に進めないから。
この関係を終わらせないと



「…ボクが、悪かったんです。
 ちゃんと気持ちに制御がかけれなかったボクが…
 で、も…君が黄瀬君に振られて安心してしまったんです…」

「え?」

「ボクは、君が好きでした…
 だから、黄瀬君に振られたと聞いて、君に近寄った…
 弱っている君に近寄って……」

「……それって…さ、」

「君の気持ちを利用してしまったんです…
 最低です…ボクは…
 可笑しいと、気づいていたはずなのに!君を、苦しめてしまった…」


すいませんでした、としおらしく呟いた黒子君
彼も私と同じなんだと思った
甘えてしまったんだ、自分に私に。
黒子君のほうが辛かったはずだ。
こんなに理不尽な正式ではない関係なんて…


「……ボクに、けじめを付けさせてください…
 止めましょう…こんなの…こんな関係」

「……うん。そうだね。やめようか」

「…は、い」

「でもね、黒子君」

「…?」

「私は少なくとも君が嫌いではなかったよ。
 あの日私と付き合ってくれた君はこんな私に優しくしてくれた。
 そんな黒子君が、大好きだったよ」

「…ぼ、くも…大好きでした」


そう言って黒子君が弱々しく微笑む



「……さよなら、黒子君」

「………さよなら…」



ニッコリ、と笑って黒子君に背を向けた
そのまま走るように屋上を飛び出して階段を駆け下りる


覚悟はしていたはずなのに
遊びの関係だったはずなのに
それでも案外キツい


それにしても、『好きだった』
だなんて笑っちゃう
お互い過去形だなんて笑っちゃう
まるで、今は好きじゃないみたいな言い方
今も好きじゃないなんて、誰が言ったの


(結局、彼は最後まで桜のように美しかったなぁ)


胸元で赤いリボンが揺れている
視界が滲んで、
鼻がツン、としてそれから――




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