「羽柴、ここにいて大丈夫なん?」 本吉は会話の途中で、はっ何かに気付いたように尋ねてきた。 古くからの友人である彼とは、先ほど駅前で偶然遭遇したばかりだ。久しぶりに話でもしようかとこのファストフード店に入り、近況報告が一段落したあたりで本吉がそう言った。何の脈略もなかったため、意味がわからず首をかしがてみせる。 「羽柴、今日誕生日やんな? 1月11日でゾロ目やから覚えててん。こんなとこで俺とおってええんか」 「あぁ、大丈夫大丈夫。超ヒマ」 「羽柴、彼女おるやろ。一緒に祝わへんの? あっ、……別れてもうたんなら、ごめん」 「あぁ、別れてないよ。うちはいつもイベントはスルーだから、今日も特になんもないと思う。なんも言われてないし」 「ええなぁ。うちのは記念日にうっさくて、正直めんどくさいわぁ」 以前紹介された本吉の彼女さんを思い浮かべてみる。確かにそんな感じのタイプだったなぁ。でも可愛らしい人だった。本吉も、めんどくさいと口では言いながら口元が緩んでいるあたり、恋人が可愛くて仕方ないのだろう。 記念日をふたりで祝うことに憧れがないわけではないけれど、うちと本吉たちとではそもそも事情が違う。本吉は勘違いしているが、俺に彼女なんていない。いるのは男の恋人だ。 男同士だし、イベント事は無理にしなくていいだろ。という空気をお互いに醸し出し、なんなんかやと7年付き合ってきた。きっとこれからもこんな感じだ。 あれから少し話したところで解散となり、家路につく。同棲中の恋人はいつも仕事のせいで帰宅が遅いのだが、今日は部屋の灯りがついていた。珍しいなと思いながら玄関を開ける。 「ただいまー。やすくん、今日早いね」 靴を脱ぎながら室内に声をかけるが、返事がない。やすくんの靴はあるため室内にいるはずなのだが、気配もない。 なんだか恐くなりつつ、リビングのドアを開けた瞬間、パンッと耳を割くような破裂音がした。反射的に瞑っていた目を開くと、そこにはクラッカーをこちらに向けて立っているやすくんがいた。そして俺はいつのまにか紙テープまみれ。 「……やすくん、ただいま」 「あぁ、おかえり」 「で、これ、なに?」 「……」 返答をもらえないまま、腕を引かれてテーブルまで連れられる。 そこには苺の乗った小さなホールケーキが置かれていた。よく見ると、「れいくん、おたんじょうびおめでとう」と書かれたチョコプレートまで飾られている。目が点になる。 「これは、バースデーサプライズというやつですかね?」 「あぁ」 「やすくん、そんなキャラじゃないじゃん」 「あぁ。でも、上手に付き合うには、こういうサプライズも大事だって言ってたから」 「誰が?」 「テレビ」 「なるほどね」 「……迷惑だったか?」 やすくんが心配そうな顔をしている。チョコケーキのほうがよかったか?なんて真顔で聞いてくる。 ちがう。そんなの、どっちだっていいんだ。 「祝ってくれるだけで嬉しい。でも、今までこんなのなかったから、照れる……どんな顔して喜べばいいか、わかんない」 耳が熱い。きっと赤くなっている。隠すように手のひらをそこへ持っていくが、やすくんにばれてしまった。 にんまりと、満足そうにやすくんは笑う。 「喜んでくれてよかった。玲の照れ顏なんてレアだな。こんな珍しいものが見れるなら、来年も何かサプライズしようか」 「予告したらサプライズじゃないじゃん」 「じゃあ、普通にお祝いしようか」 「……急に変わったね、やすくん」 「記念日は大事だってテレビで言ってたから」 「それはさっき聞いたよ」 「今まで、男同士だから気恥ずかしくて何もしてなかったけど、これからは気にしない。存分に祝う。玲、誕生日おめでとう。これからもずっと、こうやって玲と過ごしていきたい。愛してるよ」 やすくんの手がのびてきて、俺の頭を撫でる。顏から火が出そうだ。やすくんは普段クールぶっているくせに、急にこうやってさらっと爆弾を落とすからやっかいだ。過ごす時間を積み重ねるほど、どんどん彼を好きになっていく。 「……俺もだよ」 これからは毎年、やすくんの誕生日は盛大に祝ってあげようと思う。 おわり ← |