ホモはフリーセックスなのだと聞いた。なるほどこういうことかと目の前の光景に納得する。
 この世の終わりのような顔をした雪原。それでも彼の股間は萎えることなく、組敷いた見知らぬ青年と繋がったままだ。生憎だが俺に他人の情交を見る趣味はない。
「お楽しみのところ失礼した。気にせず続けてくれてかまわない」
 それだけ伝えて雪原のアパートを出た。適当に時間をつぶし、頃合いを見てアパートに戻る。先程の青年の姿はなく、性のにおいもしなかった。
 彼は俺を見るや否や、勢いよく頭を下げてくる。謝罪をされたが何に対してのものかよくわからず、とりあえず俺も謝り返した。もちろん性交を見てしまったことに対してだ。雪原は変な顔をした。


******


「それって浮気なんじゃねえの?」
 友人がいきなり声を荒げた。驚いて握っていたペットボトルを落としそうになる。
「浮気……とは?」
「浮気は浮気だろ。お前とその雪原って奴は付き合ってんだろ。なら怒ったほうが良かったんじゃねーの?」
「…そういうものなのだろうか。しかしホモセクシャルはフリーセックスが多いのだと聞いた」
「あ?ふりーせっくす? 知らねえよ、オレはホモじゃねーし」
「もっともだな。それにこの話はもう1年は前のことだ。今更怒る必要もない」
「……お前、そんな奴とずっと付き合ってるのか」
 ひとつ頷いてから、雪原を悪く言うのはやめてほしいと伝える。友人は盛大にため息をついた。
「…その、なんだ……彼氏さんのふりーせっくすとやらはまだ続いてんのか?」
「出くわすことはないが、そういう行為をする相手は男女共に数人いるようだ」
「……お前は馬鹿だよ」
 苦笑いを返すことしかできなかった。俺が馬鹿なのは自分自身よくわかっている。



******


 義務のような機械的セックス。キスをして押し倒されて服を脱がされる、その流れには1ミリほどのズレもない。上を全て脱がされたところで、ベッドと俺の背中の隙間に雪原の手が入り込む。そのまま背の皮膚をひと撫でしてから慌ててその手は出ていった。俺にブラホックはない。暗闇の中で雪原の顔は見れなかった。


 気怠い体は雪原の体温に包まれる。喉が渇いたと言えばすぐに冷蔵庫からスポーツドリンクを持ってきてくれた。それを飲み干しても渇きは癒えず、得た水分は目から流れて逃げていった。
 俺の涙を雪原が舐めとる。ごめん、と一言謝られた。相変わらず彼の謝罪は意味が掴めない。彼自身、意味もなく口にしているような気がした。それは俺が理由もなく泣いてしまったことに似ていると思った。

 辛い。
 声に出すことは意外にも簡単で、すんなりと馴染んだ。
 俺ばかりが雪原を好いているように思えて辛い。理解のあるフリをして傷つくことから逃げるのももう疲れた。代わりがいるのなら、そちらと仲良くしてくれ。別れよう。
 一息にそういえば、今度は雪原が泣いた。
「最初は魔が刺しただけだったんだ。最中を見られたときは心臓が止まるかと思った。でもお前は怒りもしなかった。それが悔しかったんだ。俺のことなんかどうでもいいと思われてるんだ、って…」
 その反発で他人との性交を始めたと言われた。俺だって自分ばっかりお前を好きなんじゃないかと悩んでいたと言われた。
 俺と雪原は似ている。言いたいことを口に出さないところも、よく似ている。

 とりあえず彼はケータイからセックスフレンドとやらのアドレスを全て消してくれた。1番初めの浮気に関しては、それに免じてお咎めなしということにしよう。



おわり

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補足:
俺→ノンケ。雪原が初彼氏
雪原→ゲイ寄りのバイ


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