毎日同じ夢を見る。
 まるで誰かに暗示をかけられたかのように、毎夜毎夜、同じ夢を。


 程よく筋肉のついた兄の背に爪をたて縋り付く。跡がつくことを咎められるかと思ったが、与えられたのは深い口づけだけだった。
 自分の喉から出た下品な嬌声をまるで他人のもののように感じていると、細い悲鳴のような、気候を勢いよく息が引いていくような、そんな微かな音を感じた。
 目をむければ、鍵をかけ忘れたドアノブを震える手で握る母の姿。
汗ばんだ体が急に非現実的に感じられる。あらぶった心臓が、私は何を知りませんとでもいうように冷えてゆく。
 母の気配に気付いた兄が動きを止める。視界の端にその存在を確認したのだろう、体が静かに離れていった。
 狂ったように金切り声を出す女に向かって、兄は「全て自分が悪い」だの「俺が襲った」だの全部自分だけが背負って自身から家を出ていった。
 僕は最後まで何も言えず、



 そこで夢が覚める。

 行き場のない兄への熱情が起こす、ありもしない夢。最後はいつもなんとも言えないバッドエンドだけれど、繋がっている最中の感覚はとても幸福なものだから、今宵も見れますようにと強く願い床につく。もしかしたら暗示をかけているのは僕自身なのではないかと思い、枕の上で薄く笑った。





 くちゅり、と。酷く近くから聞こえてきた水ばった音に少しずつ意識が浮上してゆく。咥内をまさぐる熱を感じると、途端に息苦しさがやってきた。
 小さく呻き声を出しながら瞼を上げると、すぐ目の前の存在は驚いたように震えたあと僕の唇から離れていった。


 それは兄だった。

 目もあわせずに、ごめん、すまない、と謝罪のことばを繰り返す兄は、言い訳を考える余裕もないようだった。ごまかされなかったことが単純に嬉しかった。今だ近くにあった兄の唇に自分から口づけると、兄が小さく震えたのがわかる。
 謝ることなんて何もない。ただバットエンドだけは避けたいんだ。


「――兄さん、続きをする前にドアに鍵をかけて」


おわり

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