暑苦しさに目を覚ました深夜2時。寝返りをひとつ打って目を閉じるが眠りの気配は訪れず、仕方なく起き上がり湯を沸かした。ティーパックで淹れたカモミールティーに蜂蜜とミルクを入れて飲む。幼い頃から眠りの浅かった僕に、おじさんはよくこの甘いお茶を作ってくれた。昔の話だ、おじさんはもういない。暗闇に湯気がたつ。



 おじさんは胃ガンを患っていた。入院してからは日に日に頬がこけていき、最後のほうはもうずっと布団に身を預けたまま動かなかった。病気の重さなどは知らされなかったが、きっと気付いたときには末期だったのだと思う。
 おじさんが息を引き取ったとき、僕は力ないその手を握っていた。二人きりの病室に訪れた最後の時は呆気なく、そして静かだった。遅れて現れたおばさんは彼の名を繰り返し叫び、騒ぎに駆け付けた医者によりおじさんの死が認められた。幼い頃に両親を亡くしている僕にとって、身近な人間との別れは三度目の経験だったが、死と対峙したのは初めてだった。涙は出なかった。
 後から見付かった遺書には、「自分はもういなくなってしまうけれど、君たちの幸福を願い続ける」とだけ書かれていた。いかにもおじさんらしい言葉だ。

 当時は傷心して食事も取れなかったおばさんも、先日他の男性と再婚した。何もおかしいことなどない。月日は傷を癒し、おばさんの中で彼は思い出となっただけだ。おじさんもこうなることを望んだはずだ。でも、どうしても僕は割り切れない。もし僕がおじさんの立場なら、彼に死んだ僕を過去の者だと割り切ってほしくない。僕の存在しない世界で、何事もなかったように暮らして欲しくない。「君たちの幸福を願い続ける」手紙にはそう残されていたが、大切な存在が欠けたこの地上でどうやって幸を見出だせば良いのか。僕にはわからない。



 空になったマグカップを洗って食器棚に戻す。舌に蜂蜜の甘さが残ったまま布団にもぐりこんだ。眠る前に記憶の中で大好きだったおじさんの笑顔を浮かべて見るが、それはあやふやさの中に消えていった。
 おじさん、僕は貴方が好きです。今でも僕の一番は貴方です。だから、日々自分の中でおじさんの記憶が薄れていくことが恐いです。僕はその恐怖から逃げるためにも、明日、貴方のもとへ行きます。きっと貴方は怒るだろうけど、それが僕にとっての幸福なので許して下さい。




おわり

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