最近の俺の特技、ぼーっとすること。部活終わって学校出て、少し歩いたたところの公園のベンチでぼーっ。現在進行形でそんな無駄な時間を過ごしている。
 学校で待っててもいいんだけど、一緒に車に乗るところを誰かに見られると面倒だから、帰りはここで待つことにしてる。
 ポケットの中で携帯が震えた。メールだった。
 『今日も無理そう。ごめんね』
 短いな。いつもだけど。 
 『大丈夫。じゃあまた明日』
 俺も短くそれだけ返信して公園を出る。バス停までちょっと走って、バス乗って帰宅。飯食い終わって風呂入ろうと思ってたら先生から電話がきた。

「もしもし」
『今、電話大丈夫?』
「大丈夫」
『今日はごめん』
「うん、気にしてない」
『明日は多分大丈夫だから』
「無理しなくてもいいよ」
『してないよ』
「でも先生忙しいだろうし。俺はこうやって電話してくれるだけでも十分嬉しいよ」
『……明日は本当に一緒に帰れると思うから、待っててほしい』
「……うん」

 先生は多分気付いてる。俺の大丈夫や気にしてないは口だけだってことに。本当は全然大丈夫じゃないし、すごく気にしてる。でも電話くれるのは本当に嬉しい。にやける。
 電話終わって風呂入って布団入ってもまだにやにやしてる。俺の先生好き半端ない。






 部活中、なんか体がだるくて頭も痛くて、保健室行ってみたら熱あった。38度ちょい。美人な保健室の先生に帰りなさいって言われたけど、今日は絶対先生と帰りたかったから、とりあえずベッドに寝かせてもらった。
 先生何時くらいに終わるだろう。ってか先生の車で一緒に帰ったら風邪移すんじゃないかな。とか色々考えてたら、保健室のドアが開く音がした。ベッドの周りはカーテンで仕切られてるから見えないけど、誰か入ってきたっぽい。


「……絆創膏もらえますか?」
「あら、佐々木先生じゃないですか。どうしたんですか?」
「ちょっとカッターで指を切ってしまって」
「あらあら、すぐ出しますね」

 佐々木先生って…先生じゃん!
 出ていくわけにもいかないから聞き耳をたてる。指大丈夫かな。

「昨日はわざわざ家まで送って下さってありがとうございました」
「いえ、気にしないで下さい。結構飲んでましたけど、大丈夫でしたか?」
「ええ、お酒は強いほうなので」

 保健室の先生がくすくすと笑って、つられるように先生の笑い声が聞こえる。
 先生、昨日飲みに行ったから一緒に帰れなかったんだ。仕方ない。大人の付き合いだから仕方ない。でも、家まで送ったってところが、嫌だな。助手席に乗ったのかな。乗ったんだろうな。俺の特等席なのに。
 ……俺、ガキくさい。


 先生はその後すぐ保健室を出て行った。俺は目をつぶってわざと意識をまどろませる。しばらくしてバイブ音がしたと思ったら、俺の携帯だった。
 『今日もだめになった。ごめん』
 先生からだった。
 明日は大丈夫だって言ったのにな。仕方ない。先生忙しいし。他の先生との付き合いもあるし。仕方ない。仕方ない。大丈夫。
 『わかった。また明日』


 家帰ったら熱上がってた。これはちょっとやばい。頭ぐらんぐらんしてる。とりあえず薬飲んで寝た。







 37度4分。
 翌日起きたら結構熱下がってた。けどまだ体だるいし微熱だし、今日は学校休むことになった。
 母親もパートに出かけ、誰もいない家でひとり過ごす。何人かの友達からは体を気遣うようなメールが送られてきた。嬉しいんだけど、送信されたのが明らかに授業時間内だった。授業中は携帯いじるな。


 布団の中で目を閉じる。
 浮かぶのは先生のことばかり。俺って重症かもしれない。でもこれぐらいじゃないとやってけないな。キスもしなければ手も繋がないし、好きだなんて直球で言われたこともない。たまに先生の車で帰ったり、メールする以外に特別なことなんてないこの関係。繋いでいるのは俺の先生への愛だけのように思える。でもいいんだ。先生が笑って受け入れてくれているうちは、それに甘えようって決めたから。

 午後9時。枕元で携帯が鳴る。

「……もしもし」
『もしもし、寝てた?』
「起きてた」
『大丈夫?』
「うん」
『熱は下がった?』
「うん」
『明日は登校できそう?』
「うん」
『良かった』
「うん。……明日は、一緒に帰れそう?」
『どうだろう。でも病み上がりだから早く帰ったほうがいい』
「待っていたい」
『……じゃあ、明日は必ず送るよ』

 先生は電話口で笑っていた。俺も口元が緩む。


「先生」
 好きだよ。
 言いたいけど、先生にもその言葉を強要するように思えて口をつぐんだ。

「俺、早く大人になりたい」
『……私はいつまでも待っているから、君は今しかないこの時をもっと大切にしなさい』
「なんか先生っぽい」
『先生だからね』

 笑いあう。
 明日は俺の特等席で帰れるだろうか。いくら約束したところで明日のそれまでわからない。いいよ。先生が待っていてくれる。それだけで俺は十分だ。だから追い付いたときは、さりげなく手でも繋ごうね。


おわり

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