もう疲れた。何がってもう全部が。大体最初から無理があったんだよ。高校ではそれなりに充実した日々を過ごしていて、その延長線で大学生活なんてものも楽しいんだろうと甘く見ていた。
 知らんうちに、そしてあっという間に周りはグループ化。慌てて友達作ったけど何か違うんだよ。てかノリについていけない。「うえーい!」とか謎の叫び多いし。テンション上がってんだかなんだか知らないけど、俺にもそのノリを求めるな。こっち見んな。
「う、うえーい?」
 そしてやっちゃう俺も俺。

 そんなこんなで1ヶ月。もう精神的に擦り切れた。学んだのははぐらかす時の曖昧な笑い方くらいか。
「戸崎っていつも一人だよな」
「てか服のセンスなさすぎじゃね?」
 1ヶ月も経てば、グループ内の会話に他への悪口が出てくるもので。しかし参加する気にもなれず曖昧な微笑み発動。大体、嫌いならほっとけばいいんだよ。しかしそんなに酷い服装なのだろうかと、離れたところに座っている戸崎を横目で見る。薄いブルーのジーンズにネイビーのカーディガン。普通にかっこいいよ戸崎。
 戸崎の話題はいつの間にか終わり、ひとりがバイト先のきもい先輩について語っていた。そのきもさを熱弁してた。同調してほしいんだろうけど、顔も知らん相手を貶すような人間にはなりたくない。
「うわぁ…それはないわ…」
「マジで気持ち悪いな」
「だろ?だろ?」
 しかし周りはそう思わないようで。この歳になって正義を語るつもりもないから放置だけど、なんだろうねこの虚しさは。

「お疲れさまー」
 てな感じで今日も一日が終わる。体育会系の奴とかテンション高い奴らは、おはようからおやすみまで全部「お疲れ様」。お前らのせいで疲れてんだよ、なんて言えるはずもなく、軽い感じでお疲れ様って返しておく。
 そのまま帰ろうとしたら、前方にネイビーのカーディガンが見えた。戸崎の後ろ姿だ。何気なしに見ていたら、戸崎のジーンズのケツポケットから何か落ちた。肝心の戸崎は気付かず歩く。慌てて拾いに行けば、落ちていたのはケータイだった。
「戸崎!ケータイ落としてんぞ!」
 振り返った戸崎は慌てた様子で戻ってくる。
「ごめん、ありがとう……えっと、沖野だっけ?」
「うん。気をつけろよー。じゃ」
「あ、ちょっ、待って!」
「……なに?」
「ど、どっかメシ行かないか?」


 で、今ふたりでラーメン屋。戸崎のおすすめの店とあって美味い。
「俺さ、大学って広く浅い交友の人が多いって聞いたから、ほっといても誰か話し掛けてくれると思ってたんだ」
「うん」
「結果的に放置されて流れに乗り遅れて友達できないっていう」
「……うん」
 話してみたら戸崎普通に良い奴。趣味とかはわかんないけど、波長が合うから落ち着く。
「でもさ、そんな焦って友達とかつくんなくても良いと思うよ」
「……余裕あるからそんなこと言えるんだって」
「違うよ。俺も最初のころ焦って、慌てて交友作ったけどさ……なんつーか、合わないんだよね。正直後悔してる」
「……そうなんだ」
「そうなんです」
 人生そう上手くいかないものなのです。そう言えば戸崎に笑われた。笑ってる戸崎の鼻から鼻水が垂れたことで俺も笑った。そんで、
「も、もし沖野さえ嫌じゃなかったら、友達になってほしい」
 なんて戸崎が真面目に言い出すから今度は爆笑。今時小学生でも「友達になって」なんてやり取りしねえよ。何か戸崎が可愛く見えてきた。とりあえず明日学食一緒に食おうかってなってばいばいってなって帰宅。
 明日の朝、戸崎に「おはよう」って言おうか「お疲れ様」って言おうか、悩みどころだな。


おわり

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