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 呪文のように、自らに言い聞かせるように、免罪符のように、繰り返される囁き。獣じみた息遣いの中に織り交ぜられるそれに、俺は確かに心地よさを感じていた。

 自分なんていてもいなくてもどうでもいい人種で。むしろ社会のくずのような人間で。
 幼い頃なんかは、酒酔いの父の背中を見ながらこんな大人になんかなるものかと唇を噛んでいたものだが、育てば血は濃い。酒に溺れ女に溺れ、借りた金は返せず、しかし内臓を売りたくもない。生きた軌跡なんてたかだか20年と少し。振り返ったって輝かしいものなんて見えやしないし、正面もまたしかり。
 時期を感じてそろそろ終わらせようかと首をくくる決心をしたその夜に知らん男に強姦されるとか、俺の人生どうなってんの。笑えない。しかも相手が狂ったように「愛してる」なんて。本当に笑えない。

 男が俺の奥に精を放ったかと思うと、肩を捕まれ仰向けにされた。後ろでまとめて縛られた俺の腕は、自身の重さに悲鳴をあげる。男は俺の苦痛に気付かないまま腰を動かす。

「は、あっあっ……ま、まって、うで、いたい…」
 言えば男の動きはぴたりと止まる。
「ひも……解いてくれよ」
「……だめだ」
「逃げねえよ。いいから解け」
 男の目が揺れる。迷っている目だ。早くと急かせば、男は戸惑った末に俺の拘束を解いた。腕にはくっきりと縛られた跡。眺めていれば、慈しむようにその箇所を舐められる。体の芯が熱くなっていくのを感じた。

「アンタ、そんなに俺のこと好きなの?」
「……好きだ」

 男の額には汗が滲んでいる。下半身はまだ繋がったままだ。

「……俺借金あるよ」
「知ってる」
「……酒ぐせ悪いよ」
「女ぐせもな」
「……なんで知ってんのさ」
「ストーカー舐めるな」

 こらえきれず笑い出せば唇を塞がれた。一瞬だけくっついたあと、男のそれは呆気なく離れていった。

「生きてほしい」

 聞きたくないよ、そんな言葉。
「雑草みたいな生だっていいじゃないか。死んだつもりになれば何だってできる。きっと。俺は信じてる」
「……強姦魔の言う台詞かよ」

 男の表情が曇る。わかっている。わかっているよ。今がアンタにとっての“死ぬ気”なんだろ。身をもって感じさせられて、そんで、受け入れちゃう俺も大概だ。


「お前のせいで首吊る気が失せた。責任、取れよ」

 唇を寄せてキスをする。
 ピロートークは自己紹介から始めよう。聞きたいことなど山ほどあるから。


おわり

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