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 姉ちゃんのクラスメイトが帰り、ヤナギとふたりきりになる。チェーンを外して扉を大きく開いて、彼と向かいあった。

「どういうこと?」
 ヤナギは答えない。頭を垂らして、足元を見つめている。

「嘘ついてたの?」

 喉の奥が突っ張ったように、うまく声が出せなかった。平静でいようと思うのに、鼻の奥のあたりから、じんわりとした熱で埋まっていく。
 ごめん。
 息を吐くように弱弱しく、ヤナギが言った。
 認められてしまった瞬間に、感情の熱が溢れて、どうしようもなくなった。

「なにが嘘なの……どこからが嘘なの! なんで騙していたの!」

 怒りたいのか、泣きたいのか。わけもわからず癇癪を起こした子どものように、思い浮かぶままに叫ぶ。

「……最初から。俺はさくらと同じ高校の生徒だし、もちろん、あおい以外の人にも見えてる。さくらは演技をしていただけだよ」
「演技……」
「俺がそう頼んだんだ。あおいにもう一度外へ出て欲しかった。でも、普通に会いに来たたんじゃ、きっと顔を見ることも話すことも出来ない。どうすればいいかって考えたときに、この計画を思いついたんだ。人間じゃない何かだったら、あおいは相手にしてくれるかなって。それでさくらに協力してもらったんだ」

 信じられなかった。思考が凍りついたように鈍くなる。

「いつかはバレるってわかってたのにな。花火大会の日、あおいが外に出ようとしてくれてすごく嬉しかった。でも、家から出たら『あおいにしか見えない俺』が消えてしまうから、嘘がばれてしまうと思うと恐かった」
「なんで、そこまでして……」

 口から出た僕の声に、彼は強く首を横に振った。

「あおいがこうなったのは俺のせいだから」


 一瞬、息が止まった。
 全身の筋肉が固まり、自分の心臓の音が内側から響いてくる。


「小さい頃はいじめてばかりで、ごめん。昔からあおいのことを泣かせてばかりで、成長してないな、俺」

 思い出せなかったはずの、あの時のいじめっこの顔が浮かび上がってくる。くりんとした丸い瞳に、細くて高い鼻。
 確かに、彼にはあの少年の面影が残っていた。

「傷つけるつもりじゃなかった」

 彼の手の平が、僕の頬に乗せられる。
 あたたかい手だった。血の通った、人間の手。

「さくらに怒鳴られたんだ。お前のトラウマのせいで弟は引きこもってる、て。俺、そんなこと知らなかったんだ」

 弱く首を振って彼の手の平を拒む。
 彼は惜しむように肌の上に指を滑らせて、そっと離れていった。


「帰って」

 彼の顔が歪む。今にも泣き出してしまいそうな、弱弱しい表情だった。自分の唇を強く噛んで耐えている。
 彼は目を伏せたまま、僕に背を向け、門を出て行った。遠くなっていくその姿を見つめていた僕の瞳から、控えめな涙の雫が零れた。





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