「明日、世界は滅亡します」

 はぁ、と気の抜けた俺の返事に、目の前の男の子は顔をしかめた。傷の目立つランドセルを背負った彼は、幼い顔に見合わない冷たい視線を持っていた。
 下校途中の道すがらいきなりこの少年に声をかけられて、状況を理解できないままこんな話が始まった。

「信じていませんね」
「うーん……俺ね、これから予備校なの。ちょっと急いでるから、そういうのはお友達とやってね」

 と、軽くあしらって彼の横を通り過ぎようとすると、 腕を掴まれ阻止された。

「予備校と世界、どちらが大事ですか」
「予備校っていうか、今の俺は受験が一番大事だね」
「いくら赤本を解いたって、世界が滅亡したら意味がないんですよ?」
「はぁ」
「どうして世界滅亡が起こるか知りたくないですか?阻止したくないですか?」
「はぁ、まぁ」

 彼曰く、俺は明日ひとりの男から愛の告白を受けるだと。そしてその男は破壊神うんたらの生まれ変わりなんだと。導入の時点で最早話についていけない。ファンタジーがすぎる。ていうか、男から愛の告白を受けるってなんだ。

 俺の動揺を無視して、少年は話を進める。

 その破壊神とやらは、神界でお偉いさんのカツラを大破させた結果、罰として下界へと落とされたらしい。阿保か。
 下界で人間として生を受けている間、彼は破壊神としての記憶も能力も奪われ、無力な生命としてひとつの人生を遂げるで罰を終えることができるのだそうだ。

「――それでもカツラの鬱憤を晴らせなかったお偉いさんは、破壊神に呪いをかけました。もしも人間になった彼がこの世の滅亡を望んだならば、地球ごと彼を爆発させる呪い」
「カツラの恨みこわすぎ」
「そうして、神だったころの記憶と力を失った破壊神は、この下界ですくすくと成長したのです」
「それで、その話と俺の関連性は?」
「貴方は明日、呪われた破壊神から告白を受けます。貴方がそれを断れば、彼は絶望するでしょう。そして思うのです、世の中なんて糞だ、みんな滅んでしまえ、と。はい、世界滅亡」
「ぶっ飛びすぎじゃないですかね……」

 5時のチャイムが夕暮れに響く。そろそろ予備校に向かわなければ間に合わない。
 ごめん、と断ってから、俺は少年の横をすり抜けた。

「僕の言ったこと、忘れないで下さいね! 明日、人類の運命が決まるんです!」

 後方で少年が叫んでいたが、俺は振り向かなかった。
 ごめんよ少年。やっぱり俺は受験が一番大事だ。




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