「お兄さんって、名前なんていうんすか?」

 安藤くんの「お兄さん」呼びが馴染んで気づかなかったけれど、そういえば名前を教えてない。

「……和樹?」
「なんで疑問形なんすか」
「なんとなく?」
「……和樹さん…へへ」

 安藤くんが照れ臭そうに笑う。のを見てなんだか恥ずかしくなって、でも嬉しくて、多分今変な顔になってると思うから見られたくなくて腕で隠した。

「……お兄さん、照れてる?」
「照れてないよ」
「じゃあ顔見せてください」
「嫌です」
「耳赤いの見えてますよ」
「……安藤くんって意地悪だよね」

 顔をあげて睨んでみるけど、安藤は余裕の表情で微笑んでいた。

「好きな人には意地悪したくなるタイプなんです」

 一瞬の沈黙の後、安藤くんがはっとした顔をして、みるみるうちにゆでダコになった。それを見て俺もまた赤くなる。







「……俺、和樹さんのこと好きです」
「……うん」
「……気持ち悪い、とか、思わないっすか」
「……思わないよ。嬉しいよ」
「付き合いたいって言ってもですか」
「……俺で、いいなら」

 そう言えば安藤くんは目を見開いて、そして今にも泣き出しそうな情けない顔をした。それが可愛かったから頭を撫でてあげる。

「俺のために毎日ご飯作ってよ」
「……なんか、プロポーズみたいっすね」

 安藤くんは笑った。やっぱり笑顔のほうがいい。


おわり





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