空腹で目が覚めた。冷蔵庫の中にはなにもない、いつものことだ。というかまずコンセントがささっていないのだけれど。
 しかたないコンビニでも行くかと布団から這い出し適当に身支度をすませて家を出る。ニ日ぶりの外の空気は刺すように冷たかった。

 数日は家を出なくていいように弁当やらカップ麺やら飲み物やらをいくつかカゴにいれる。レジへ向かう途中、よく見るバイトの女の子と目があった、かと思えば慌ててそらされた。なんとなく居心地が悪い。

「お弁当、温めますか?」
 研修中と書かれたプレートを胸につけた青年がもたもたとレジを打ちつつ、思い出したようにたずねてくる。接客は慣れてないのだろう、営業スマイルは少しぎこちないが好感はもてた。
「……この弁当だけおねがいします」
 口を開こうとしたら上唇と下唇の皮がくっついていた。数日ぶりに発したのは掠れた声。でも自慢の笑みはうまく作れた。
 弁当が温まるまでの微妙な時間の過ごし方がわからず、意味もなく肉まんを見つめる。ふとレジの向こうから視線を感じおそるおそる目をむけると、やはり青年は俺を見ていた。

「いつもこういう食事なんですか?」
 青年は商品を袋につめながらそう尋ねてきた。こういうってどういう?と聞こうとしてレジ袋の中身が目に入る。ああ、こういう、ね。
「まぁ、自分で料理とかできないんで」
 する気もないから一生できないままだろう。
「でも健康に悪いですよー」
「ははっ、わかってはいるんだけど。楽なんでついつい、ね」
「何言ってるんですかー。これだけのイケメンさんだったら、ご飯作りに行きたいって言う女の子なんてたくさんいるでしょう?」
「ははっ、いないいないそんな奇抜な女の子」
「嘘だー。……じゃあ今彼女もいないんですか?」
「いないよ」
 というか今までに彼女なんていたことがない。そうこうしているうちに電子レンジが音をたてて止まった。会話も止まり、青年は温まった弁当を別の袋に入れる。ちらりとネームプレートを覗くと「安藤」と書かれていた。
 会計をすませて、差し出されたレジ袋三つを手にとる。

「またね、安藤くん」
 無邪気に笑って、空いている手をひらひらとふる。愛想の良さには自信があるが、この歳になればもう通用しないのもわかっている。のだけれど、俺は媚びるようなこの笑い方しか知らないから仕方ない。

 帰り道、少しだけ足取りが軽くなっている自分に気付いた。それはこれから腹が満たされるからかもしれないし、久しぶりに人と話したせいかもしれないし、イケメンさんだなんて褒められたからかもしれない。きっとその全部のせいなのだろうけれど、今日がいつもとちがう一日になったことにかわりはなかった。





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