いっちーの家に着いてドア開けた瞬間、全身に衝撃。びっくりして目がちかちかして、落ち着いてみたら俺の体にいっちーがぎゅってくっついてた。なんか可愛い。可愛いけどここ玄関前だよいっちー。
 ずるずる引きずられるように家の中に引き込まれて、流されるまま床に押し倒されて、上着を鎖骨までまくし上げられる。


「えっ、ちょっ、いっちー?」
「なに?」
「なにじゃなくて……欲求不満?」


 いっちーは答えない。俺のお腹とか腰をじいっと見つめながら、べたべたとそこを触ってくる。その動きにやらしさは感じなかった。くすぐったかっただけの感覚がじわじわと熱っぽくなって、勃ちそうになったから体をよじって逃げた。


「どうしたの? いっちーおかしいよ」
「……正直に答えてほしい。俺に殴られたことはある?」
「いっちーに? ないよ。何の話?」
「……じゃあ質問を変えるけど、酷いことをされたり言われたりしたことは?」



 あの時、初めていっちーに怒鳴られた。ひどくされた。代わりだと言われた。薄れかけていた記憶ははっきりと脳裏に浮かぶ。泣きたくなった。でも泣いちゃだめだ。春斗さんはいっちーが俺にベタ惚れだって言ってた。ふたりで話しあえって言ってた。
 俺はいっちーが好き。その事実さえあれば代役でもいいと思ったけど、それはただ幸せだった時間を悲しくさせただけだった。「本当」が知りたい。



「……あるんだね」

 返事をしない俺を見て、いっちーはそう言ってため息をついた。俺はひとつ頷いた。

「いっちーが酔っ払って帰ってきた日に…」
「やっぱりあの時か」

 いっちーは恐い顔をした。何をされたのか聞いてもいいかな、って言われてまたひとつ頷く。


「手、捕まれて、動けなくされて、む、無理矢理挿れられて、尻叩かれて、…………あと、お前はハルトの代わりなんだって、言われた」


 いっちーはしばらく何も言わなかった。俺もいっちーのほうを向けなかった。床ばかり見てたら、やっといっちーが声を上げた。


「……痛かったな…辛かったな……、ごめん」

 いけないと思ったけどにじんだ涙はそのままこぼれた。頬がいっちーの手に包まれる。またこぼれた。


「……俺って代わりなの?」
「そんなわけない。好きだよ。竜二が好きだ。……でも竜二のことをよく知らなかったときに、春斗の面影を重ねてたのは確かだ……ごめん」


 いっちーはすまなそうに眉を下げて、言い訳を聞いてほしいと言った。頷いた。
 いっちーは酔うと心が昔にタイムスリップするんだって言った。思い出の中に入り込んじゃうんだって。それからすぐ怒って叩いたりしちゃうんだって。あと、いっちーは昔ずっとハルトさんが好きで、俺と付き合い始めたときもまだちょっと吹っ切れてなかったんだって教えてくれた。だからその時期の記憶に飛んでたんだと思うって言ってた。



「今は、ちゃんと俺だけが好き?」
「竜二だけが好きだよ」
「べた惚れ?」
「べた惚れ」
「俺いっちーにそんなこと言われたの初めてだよ」
「普段は恥ずかしいから言えないんだ」
「ちゃんと言ってほしい」
「わかった。ちゃんと言う」
「あと、お酒やめる?」
「……飲み過ぎないように気をつけるよ」
「お酒やめる?」
「……はい」
「じゃあ許す! 仲直りのちゅー」


 ぶちゅって勢いでくっつけて、離そうと思ったらいっちーに頭おさえられた。舌が入ってきた。べろちゅーあんまり好きじゃないけど、いっちーは好きみたいだからおとなしくしてよう。って思ったけど、もそもそといっちーの手が服の中に入ってきたから逃げた。

「……竜二?」
「仲直りえっちはしません! てか今後えっちはしません!」
「えっ……やっぱりまだ怒ってる…?」
「そうじゃなくて、俺とえっちしたらいっちーは犯罪者になっちゃうんだって。だから俺がちゃんと立派な大人になれるまで禁止!」
「……長いお預けだね」
「……待っててね、いっちー」
「うん、待つよ。……しかし、竜二が立派な大人になれる日なんてくるんだろうか…」



おわり




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