「冬獅郎、冬獅郎!!」

「なんだよ気色わりいな」


高校2年生、春
同じ高校に通う俺達。学校の掲示板には新しいクラスの掲示がされていて、人でごった返していた


「私たち、同じクラスだよ!!」

「……へえ」

「もうちょっと嬉しい顔とかできないわけ?!しかも今気色悪いって言ったよね?」

「あー嬉しい嬉しい」

「むかつく!!」

花音は少しムッとしていたが俺はそれを軽く流し教室へ向かった

教室は慌ただしく、春休み明けの周りの奴らのテンションは尋常ではなく面倒でしょうがない

「冬獅郎!!また一緒だな」

「……そうだな」

「全く嬉しくなさそうだなお前」

…このやり取り一体何回やったら気が済むんだ
俺達はもともと特進クラスだから、初めから2クラスしかない。クラス替えをしたところでほとんど一緒だろ

「ねえ、冬獅郎」

「なんだ」

がやがやしたクラスの中で、花音が俺の机の前にしゃがんで顔を覗かせた

「綺麗なもの、見たくない?」

「は?」

やけにニヤニヤしている、何かよからぬ事でも考えているのではないかこいつは。


「桜、見に行こ」

「なんでお前と見に行かなきゃなんねえんだよ」

「いいじゃん、放課後に出発したらちょうど夜桜的な時間帯に見れるね」

「……面倒くせえ」

俺がそんな事を言っても花音は気に止める風でもなく、完全に俺と一緒に行く体で話を進めている

なんやかんやで俺が行くとふんでいるのだろう、心外だ
…でも、想いを寄せている奴にこんな事言われて断る馬鹿なんかいねえよ

「しょうがねえな」

「やったね!!」




放課後、約束通りに二人で自転車に乗って花音が言う桜が綺麗な場所へ向かう。

「……絶対電車乗った方がよかっただろ」

「馬鹿だなあ、苦労して着いて見たものの方が感動がひとしおなんだよ」


そうは言ったものの、結局着いたのはそれから2時間後。外はかなり暗かった。…俺と花音はかなり疲れていた。


「…まだ歩くのかよ」

「あともうちょっと…っ、ほら!あったよ!冬獅郎!!」

先に歩いていた花音が振り向いて俺を呼ぶ
俺は特に急ぐ素振りもせずに、花音の方へ向かう。花音と並び、花音の指さす方へ目線を向けると、たくさんの桜が綺麗に咲いていた

「綺麗だね、本当に」

「…そうだな」

「苦労して来た甲斐があったでしょ?」

「……ああ」


俺達はしばらく無言のまま眺めていた
そうしていると、花音がいきなり桜の方へ歩き出した

「冬獅郎、」

「なんだ?」

「私って強いと思う?」

「何言ってんだよ、喧嘩の事か?」

俺が茶化して言っても、花音は少しも笑わなかった

「……お前は強いんじゃねえか?」

そう返しても、反応はない

「………私は、……弱いんだよ?冬獅郎」

「…っ」

振り向いた花音の頬は濡れていた
俺は気がつくと後ろから抱きしめていた

「どうした、らしくねえな」

「それはお互い様だね」

ふふ、と笑うけど
いつもの花音とは全然違う姿だった

「……大丈夫だ」

「うん」

表情は見えない。でも花音の涙を見た瞬間、俺が守らないと、と思ったんだ

「俺がついてるから」

「…え」

花音が俺の方へ振り向く

「だから、付き合うぞ」

「なにそれー、…さすが俺様野郎だね」

「うっせえよ」

俺の一世一代の告白は軽く流され振られたと思われたが、

「そんな不器用な告白しか出来ないところも全部好きだよ、…ずっと前から」

と花音は笑って俺の首に腕を回した

「冬獅郎に見せたかったの、この桜毎年ひとりで見てたんだ」

「…そうか」

「来年も一緒に見てね」

「馬鹿だな、毎年だろ?」


俺は何も知らなかった。花音が何故泣いたのかを。もしかしたら花音自身も、本当の意味に気づいていなかったのかもしれない
悲運に見舞われた自らの運命に。





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