また、俺は夢を見ているのか

花音が俺の手を握っているんだ
そして

「あ、起きた。おはよう」

と、俺に笑いかける
これは現実なのだろうか、この手の感触、額の上に乗る冷たいタオル、そしてあまり働かない頭。視線を花音から外して周りを見渡すとここは間違いなく俺の部屋だ。

「どうしたの?...そんな顔して」

「.........いや...」

現実なのか。花音は俺の額のタオルを取り、直接額に手を置いた

「熱、下がったかな?」

「...悪いな、色々と面倒かけた」

「そんな事ないよ、朝ごはん食べるでしょ?作ってくるね」

花音はすたすたと部屋を出て行く

一人になった部屋で、俺はゆっくりと昨日を思い出そうとした
花音が俺に寝ろと促し、そして......

「............やべ」

血の気が引いた
意識が朦朧としていてはっきりとは覚えていないが...、うっすらとあるのは花音を抱き締めてしまったという事だ
...最悪、だな
花音にはかつての俺との関係を言いたくない、花音は混乱するだろうし、それに言ったところでどうにもならない。俺は花音が許すのならば、花音を見守り、そして少しでも笑っていられるようにしてやりたい、たとえ花音の最愛が俺ではなくとも。だから、花音に俺を愛せだなんて言わない。花音があの頃のように笑って幸せだと言えるのならそれが俺の幸せだと言えるんだ。......なのに、あんな事をしちまっただなんて...俺は相当の馬鹿だ


「冬獅郎ー、ご飯出来たよ」

「...ああ、悪...「謝らないで、私がしたくてしてるんだから」

分からなくなる、一瞬だけでも勘違いしてしまう。

だからこれは違うんだと何度も言い聞かせる。花音は俺との記憶が無いんだと、花音は俺が想っているように花音は俺を想っているわけではないと。ただの善意だ

「ありがとうって言ってくれた方が嬉しい」

それでも、花音の善意に俺は救われている

「......ありがとう」

「ふふ、どういたしまして。さあ食べよ食べよ」



花音は、笑う
ただあの日とは違う、もっと大人びた姿で。

時が経った事を思い知らされる

俺の中にある、あの日から止まっていたはずの時計が動き出す音がした。時計だけじゃない、感情も、色も、音も俺を覆う全てが蘇る。

...俺は今、また再び幸せだと思えたんだ
こうして花音といられた事に





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