花音は居なくなった
俺の元から消えてしまった


音もなく、突然に、何の前触れもなく。

花音という存在自体が嘘だっかのように呆気なく、俺の目の前から消え去った









「すげえ雪だな、バス遅れて大変.........、...っ」

いつものように病室に行くと、そこは空のベッドだけが残っていた

「花音......?」

何度呼んでも、何度探しても花音はいない

昨日の夜、また明日と言ったばかりなのに

花音とのあの旅行から数週間、確実に花音の身体は弱っていた
それでも、俺たちは毎日笑って過ごしていた

最後の最後のまで一緒に生きると決めたから
花音が俺と生きたいと言ったから

俺は学校にほとんど通わず花音と一日の大半を過ごしていた

なのに、今日に限って俺はテストだけを受けに学校へ行ってしまった

「......何でだよ...」

今日に限って、今日に限ってなんだ
また明日来てくれるよね?って言ったのは花音だろ?

そんな事も忘れてしまっただなんて言わせねえぞ

...俺とお前はずっと一緒なんだろ?






「......ちっ」

病院の外壁に拳をぶつける


担当医に聞くと花音は転院したらしい
場所はわからない、両親が突然今朝連れて行ったそうだ

「.........っ」

花音と、もう会えないというのか
まだ俺たちにはやらなければいけないこと、やり残した事がたくさんある

全部花音がやりてえって言ってたんだ

馬鹿みたいな事から、ほんとに些細なことまで本当にたくさんあった


花音がウエディングドレス着たいなんて言い出すから、ほら、今日こうして持って来てんだ

...なのに居ないんじゃ話になんねえだろ
花音が着ないなら誰が着るんだよ

最高の笑顔を想像していた俺の期待は、最悪の形で裏切られた


俺が馬鹿だったんだ
いつも会えると思っていたんだ
少なくとも、数ヶ月は花音はあの病室で、あのベッドで笑って俺を迎えてくれると思っていたんだ

これは、誰への罰なんだ?俺なのか?花音へのさらなる仕打ちなのか?
何故こんなにも、俺たちの恋は報われないんだ

何も望んでいない
ただ俺と花音、一緒にいるだけでいい
それだけの願いすらも叶えてもらう事は出来ないのか



...俺は花音に言い残した事がある
まだ言ってないんだ、昨日の「ごめん」を。

取るに足らない程の喧嘩をした
本当に些細なんだ、でも俺は花音を突き放すように病室のドアノブに手をかけた

「冬獅郎、......明日も来てくれるよね?」

「はあ...、明日はテスト受けて行くから午後だな」

「うん...、ごめんね、また明日」


俺が最後に見た花音の顔は、笑顔ではなく、今にも泣きそうな顔だったんだ

今日、俺も謝るつもりだったんだ

なんで、あの場で仲直り出来なかったんだ
それは今日を見越した俺の完全なる過ちで。
もし、あの場で仲直りしていたら、花音は笑顔でキスをせがんでいただろう

全ては俺のせいだ
花音の傷も、俺の過ちも。

花音がどこか遠くで生きてくれている保証があるなら、俺は構わない
でも、そんな保証どこにもない
俺には花音の生死を知る術がないんだ

それは、花音の命をすり減らす事をしてしまった俺への罰なのか
神様とやらは、俺になど花音を任せる事は出来ないと判断したのか

花音は、俺の手の届かないところへ行ってしまったんだ

...寂しいって、辛いって、会いたいっていつもみたいに俺に言ってくれよ
俺に届けてくれたなら、すぐに会いにいくというのに


高校生の俺には、花音のためにしてやれる事は少な過ぎて、幼過ぎた故に傷つけ、最後には後悔が残ってしまった


俺は、このあまりにも儚過ぎた花音との日々を、この後悔を一生背負っていく

叶うはずもない願い、わずかな希望も全て捨てた
何度裏切られた事か。
この世界には、もう何も期待していない
願うだけ、想うだけ無駄な事は痛いほど、思い知らされた

信じるものは何もない、自分すらももはや信用に値しない

俺の世界には、何も残っていない
花音だけ、花音との思い出だけ


好きだよ、離れたくない


そんな願いなんて叶うはずもなく。
ただ、残酷に奪っていく









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