それから二人で散歩をしたり、ゆっくりとした時間をすごした

外は雪が降っていて、冷えるから帰ろうと言っても、もう少しと駄々をこねたり花音らしい姿がまた愛おしく感じる

部屋に着くと、綺麗に敷かれた布団を見た花音がすごいねと俺の方を向いて笑う
俺もそんなくだらないことで感動する花音がなんとなくおかしくて笑った


「そういえばお前...、薬飲んでるか?」

ふと気になって聞いてみた
今日一日中一緒にいたが、花音が薬を飲む姿を見ていない

「んー、飲んでないかな」

「はあ?!何してんだ」

ひょうひょうと言う花音
俺が少し声を荒げてもまるで気にしていないようだ

「...だって、薬飲むと具合悪くなるもん」

「だからって...」

それ以上何も言えなかった
飲めと言ったら、きっと花音は今のように話したり散歩したりできないだろう
しかし、飲まないと命の期限は...

「私ね、明日死んでもいいの」

「.........」

「だから今を幸せでいたい」

そんな事を言われてしまうと、どうしようも無くなる

「私、冬獅郎がすごい好きだよ、...伝わってるかな?」

花音の言葉ひとつひとつが重たくて、俺に何度も好きだと言って、俺に何度でも優しく微笑んで、...目に涙を溜める

「...痛いくらい伝わってる」

俺は、それが花音が俺の元からいなくなるカウントダウンのような気がしてしょうがない

あと何回俺に好きと言えば、花音はいなくなってしまうのだろう


「......俺は、怖い」

「え?」

俺は、もう花音のいない世界で生きていく自信がない
俺は、もう花音のいない世界で生きる目的を見つける事はできない

...俺は、やっぱり花音には生きていて欲しい
花音が俺を忘れてしまっても、生きて欲しいんだ

花音が希望するものは、命を擦り減らす事に繋がる
でも花音の笑顔のためには、花音の心からの幸せのためには、それは仕方のない事で。

散々花音の幸せを願っておきながら、
ここにきて俺は自分のエゴをなかなか捨て切る事ができない

でも、花音の人生に俺が干渉する資格なんてどこにも無いんだ

「...なんでそんな顔をするの...」

「.........」

「そうだな、って言ってよ...、冬獅郎らしくないよ...馬鹿あ...」

花音は俺の胸を何度も叩いた

「...やっと、覚悟ができたと思ったのに...!......冬獅郎がうなづいてくれないから......、生きたいって思っちゃうじゃん...」

きっと俺達は同じ事を思っていた
生きるだけの幸せと、燃え尽きる命の幸せ
両天秤にかけた時、土壇場で少しだけ、ほんの少しだけ生きるという方に傾いてしまう

それは、俺が花音を深く愛しているように、花音も俺を深く愛しているからだ

「...死にたくないよ...!助けて、冬獅郎...!怖いよ...」

「.........っ、」

初めて出た花音の本音は生々しくて、それでいてすごく哀しいものだった

俺は何も花音の心を救う言葉を言えなくて、ただ抱きしめる事しか出来ない

「...泣くなよ、せっかくの旅行だろ」

そして花音の瞳から流れる、止まる事を知らない涙をひたすら拭う

「......冬獅郎だって泣きそうだよ」

「俺はお前と違って泣かねえよ」

でも、それでもひとつだけ言えるのは、




悲しみが戻らないように




...生きよう、最後の最後まで一緒にいよう
そして、最後には「幸せだ」と笑って言うんだ





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