「花音、もう私たち知らないよ」 「ごめん…」 「日番谷と付き合った事だってうちらに話してくれないし、ずっと日番谷にべったりだし…、他のクラスにも日番谷狙ってる子いるし、正直みんな良く思ってない」 「…………」 冬獅郎に周りの女の子が好意を抱いているのは知っていたし、私もそのうちの一人だった。だから、私が良く思われないのはしょうがないのかもしれない 「花音が友情よりも男を取るなんて思ってなかった」 「………ごめん」 多分冬獅郎と付き合うまで、いつも一緒にいた人たち。そう思われても仕方ない。すごい悲しくて、辛くて堪らないはずなのに、…名前もぱっと思い出せなくて 「もういい」 私は去って行く後ろ姿をひたすら眺めていた 自分の事しか考えないで冬獅郎に依存していた私が悪い。大切だったはずのものが一気に消えてしまう 「………頭、痛いな」 少しだるい体を壁に寄り掛からせ、小さく呟きながら誰もいない学校の廊下をじっと見つめていた 「花音、待たせたな」 それからしばらくすると、冬獅郎が委員会から戻ってきた 冬獅郎は意外にも学級委員をやっている。…他薦でしょうがなくだけれど。 「…具合、悪いのか?」 冬獅郎は私の顔を覗き込んだ 「……この学校には、私の知らない人ばっかりだね」 「………」 私は、もうきっと何もわからない 誰もわからない、だからここにいるべき人間ではないのかもしれない 「でも、明日になったら忘れちゃうから悲しくないや」 うん、そう。どうせ全部忘れちゃうから胸が痛むのも今だけなの、だから、……辛くない 「…………」 冬獅郎は何も言わない、でも、いつもより悲しそうな顔をしていて、私はどうしていいかわからなくて、また笑った 「そんな悲しい顔しないで?」 「お前が悲しい顔しねえからだ」 「…悲しいと思うと悲しくなっちゃうでしょ?」 そう言うと、冬獅郎はさらに眉間に皴を寄せる 「花音……」 「せっかく冬獅郎と一緒にいられるのに、悲しいこと考えてたらもったいない」 だっていつ私に何が起こるかわからないでしょ? だったら私は1ミリでも悲劇よりも幸福になれる道を選ぶ 「二人で共有するっていう選択肢はねえのか?」 「抱えきれなくなったらよろしくお願いするね」 毎日が悲しいことだらけだよ 毎日が泣きたいことだらけだよ 冬獅郎まで一緒にそうならなくてもいいの、冬獅郎は私の唯一の希望でいて欲しいから しおりを挟む |