「花音、」

「んー?」

「学校どうする」

「あ!学校か!!今何時?」

時計をちらっと見ると時効は8時半過ぎだった。今から急ごうと間に合わない

「うーん、行かない!」

花音はベッドにダイブしながら言った

「危ねえな」

「過保護ー」

「うっせえよ」

それくらい大切なんだって事をこいつはわかっているんだろうか

「学校にも行かねえ事だし…」

花音の頬に手を添えTシャツをたくしあげる

「えっ!?やだ!恥ずかしい!」

「そんなに恥ずかしがる事ねえだろ、…明るいとよく見えるな」

「……平気でそういうこと言うもんね」

花音の白くて華奢な身体に触れる度、花音はびくっとする。それがまた可愛いくて仕方ない

「細っせえな、…もっと高カロリーな物食った方が良いんじゃねえか?」

「冬獅郎に言われたくないね」

「随分と余裕があるじゃねえかこの野郎」

好きな奴には何度でも触れたい、ずっと触れていたい。体温を感じていたい、ひとつになりたい。

それくらい、花音を愛してしまった



「冬獅郎…電話」

大きな電話の呼び出し音が聞こえる
俺は完全無視を決めこんだが、花音が出ろとうるさいから、仕方なしに花音から離れた

「…ちっ」

「舌打ちしない、ほら早く出てきて」

花音に促され、嫌々受話器を取る

『日番谷か?何やってんだ』

…やはり担任だった。このタイミングで電話をしてくるなんて許さねえ、絶対許さねえ。

「……すいません寝坊っす」

『珍しいな、お前が寝坊するなんて。…それより日向と連絡つかないんだが、何か知らないか?』

「あー、あいつ具合悪いって言ってたんで今日は休みます」

『は?何言って…「ガチャッ」

いろいろ面倒だし、俺の機嫌の悪さも頂点に達していた事もあって、思いきり電話を切ると

「機嫌悪すぎ!!」

隣で一部始終を見ていた花音はしばらく爆笑していた

「はあ…笑った笑った。じゃあシャワー借りるね」

「…………ああ」

…完全にペースを乱された
俺の人生で、今までこんなにもペースを乱される事があっただろうか

「とーしろー!」

「あ?」

「お腹空いた!」

「…そうだな」

それが、人と付き合うということなんだろう


「そういえば、お前家に連絡しなくていいのかよ」

二人でリビングの食卓テーブルで朝食をとっている時、ふと気がついて花音に聞いてみた

「え?うん全然問題ないよ、私一人暮らしだし」

そう言った顔が少し寂しそうに見えたが、それよりも…

「一人暮らしなのか?初めて聞いたぞ」

「言うタイミングもなかったしね」

意外と俺は花音を知らない
花音の心は何層にもフィルターを張っているようで、なかなか覗くことは出来ない

「…そんなに悲しい顔しないで?」

「…っ」

「私…隠そうと思ってる事なんてないから、だから…嫌いにならないで」

「嫌いになんてなるわけねえだろ…」

花音は俺をよく見ている
俺の小さな反応も、仕草も見逃さない

なのに俺は花音を本当に理解することが出来るだろうか、花音を本当に守ることができるんだろうか

「冬獅郎、私は今幸せだよ」

花音は俺の不安も全てわかっているんだろう

「俺だって幸せだ」

でもそんな事より、今はこうやって二人でいられる事が、何よりも嬉しくて楽しいんだ





しおりを挟む