病院から出ると、涙が溢れてきた。 私は死んでしまうのだろうか、記憶は戻らなくってしまうのだろうか、全てなくなってしまうのだろうか、なにもかもがわからない。 私は一体どうすればいいの? そんな考えがぐるぐる回って、自分さえもよくわからなくなっている 「…………」 携帯を見ると、すごく短い文章のメールが一通 "俺がいつも側にいるから" それを読むや否や手が勝手に動いて、気がつくと私は冬獅郎に電話をしていた 『どうした』 「……………」 『…花音?』 「……………」 ただ、声が聞きたかった。それだけですごく安心するから。 『…泣いてるのか?』 「……何か、話して?」 冬獅郎は私の無茶苦茶な要求に、少し驚いていたようだった 『…………何の話が良いんだ?』 「うーん、幸せになれる話」 『かなり難しいじゃねえか』 「じゃあね、冬獅郎の話がいいな。今までどういう人生を送ってきたのか」 『人に話すほど良いエピソードも悪いエピソードもねえけどな、…』 それから冬獅郎は、自分のことを話はじめた。小学生の頃からこんな感じの少年だったこととか、とにかくいろいろ。冬獅郎は自分の話をしないから、全てが新鮮だった。 『…で、高校に入って花音に出会った』 「…………え?」 電話をしながら歩いていると、私の家の前によく知る銀髪が見えた 『そして、お前を守ると決めた』 「冬獅郎……」 私は冬獅郎に向かって走って、抱き着いた。それと同時に涙も止まる事なく流れ出した 「本当に無茶苦茶なこと言いやがって…、俺は人生で一番長く話したぞ」 「ごめん、声が聞きたかったの」 冬獅郎は私の頭を優しく撫でて、私の涙が止まるまで続けてくれた 「…いつでも待ってるから」 「うん」 何も聞かずに私にここまで尽くしてくれる冬獅郎に罪悪感が沸いて来る いずれは言わなくちゃいけないことだろう。分かっているつもり。 「……もう少ししたらちゃんと話すから、だからあとちょっとだけ待ってて」 「…わかった」 でも、今はまだ冬獅郎と居たくて。冬獅郎に愛されたくて。 ただ甘く、切ない だから、今はまだこのままで。 しおりを挟む |