「今日はここでバイバイ」

放課後、交差点で私は繋いだ手を離した

「何かあるのか?」

「うん、ちょっとね」

今日は行かなきゃならないところがある。冬獅郎はそれ以上何も聞かずに「そうか」とだけ言った


「花音、」

「ん?」

「……気をつけて帰れよ」

「…ありがとう」

私は冬獅郎の遠のく後ろ姿をしばらく見ていた。

「………ごめんね」

その小さくなっていく背中に向かって小さく呟いた







「頭痛は?」

「…あります」

病院に通って問診を月に一度受けている。ただの健康診断ではない。私の持病というべきものの進行具合を診てもらっている。

「最近何か変わったことは?」

「……物忘れが以前よりすごい増えてます」

そう言うと、担当医の先生は少しいつもと違う雰囲気になった

「一人暮らしだっけ」

「そうですけど…」

「じゃあ来月から入院しようか」

「え?!」

あまりにも突然の言葉に一瞬理解が出来なかった。そんなに私は悪くなっているの?今まで普通に生活していたのに?

「私、そんなに深刻なんですか?」

「前にも話したよね?病気の話」

「…はい」

私はかなり珍しいと言われる病気を患っていて、それは記憶障害が主な症状であとはよくわからないらしい。脳の難しいところがなんちゃらとか言われても私にはさっぱり。
今まではずっと薬でなんとか日常生活を送れていたけど、その薬も効かなくなっているらしい。
要は、私は欠陥品っていう事。こんな事実を冬獅郎に絶対知られたくない。きっと面倒だと思って振られるに決まってる。

最近は症状がひどいけど、今までは良くなったり悪くなったりしていたから今回もたいしたことないはず
だから、大丈夫
勝手にそう思っていた

「今回は、本格的にまずいかもしれないからね」

「あの、退院は出来るんですよね?」

当たり前の事だと踏んで尋ねた質問は、私を心底奈落の淵へ落とした

「…多分完全な退院はないかな」

「え……、それって一生ってこと…?」

「それくらい難しくて珍しい病気なんだよ」

目の前が真っ黒とはまさにこのことを言うのだろう。神様の今回のいじわるは結構本格的みたい。

目に見えぬ恐怖と戦うとはこういうことなんだなって、痛感した。
なんで今なの?っていうのが正直な感想。だって、一週間前だったらきっと今より冷静にこの状況を受け止めていたと思う。それくらい、恋をしているというのは大きかった。
全てが冬獅郎中心で回っていて、離れたくない嫌われたくない、…愛されたいという気持ちがどんどん膨れ上がる。


私は絶対に救われない運命なんだろうか





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