幸福概論
「幸せになりたい」
「……へえ」
花音は最近よくこの言葉を言う
「冬獅郎は思わないの?」
「お前を見てると、いかにお前が幸せなのかがよくわかる」
「幸せになりたいって言ってるんだから幸せじゃないって事じゃん」
「…じゃあ花音はどうなれば幸せなんだよ」
少し呆れて聞くと、花音は少しふくれた
「私の幸せを察するのが冬獅郎の役目だよ」
面倒くさいのが女だ
そんなの俺が知った事じゃない。
衣食住が揃ってて、毎日それなりに過ごしていて何が不自由なんだ
なんて聞いても花音自身の答えは分かっているんだろう、それが女という生物なのか。
「じゃあヒントをあげようか」
「…ああ」
「私は幸せだよ、でも幸せになりたいの」
全く訳がわからない。花音は子供がなぞなぞ遊びをしているかのように、楽しそうに話ている
「さあ頑張って考えてくれたまえ、日番谷隊長殿」
こんなに楽しそうにする花音を見てると無視する事なんか出来なくて、久しぶりの非番だ、少しくらい真面目に考えてみることにした
...幸せというものを。
しかしこういうものは考えれば考えるほどどツボにハマっていき、最終的には答えなど全く出る気がしない
「じゃあさ、冬獅郎の幸せってなに?」
「は?俺...か?」
そんな事いきなり聞かれても答えられる筈なんてない
むしろ俺を凝視している花音が気になって、何となくその柔らかそうな頬を引っ張ってみた
「いひゃい、」
「これが俺の答えだ」
幸せというのに、具体的なものなんてない。どうすれば幸せだというものでもない。結局は幸せなんて漠然としたものにすぎないのだろう
だとすれば俺の答えは"今"だ
「ほっぺた引っ張る事が冬獅郎は幸せだと思うの?」
「そうだ、面白えし」
そう言うと花音は怒るんだろうな、と思っていたのに何故か俺に笑顔を向けた
「だったらその幸せが私の幸せ」
そうなら俺にわざわざ答えさせる必要はないだろ、なんて思ったが花音の笑顔を見るとそんな事どうでもよくなってしまった
「やっと笑ったね、冬獅郎の幸せが共有出来たのでめでたく私は幸せになれました」
「...なんだそれ」
「私は幸せだけど、冬獅郎は幸せそうじゃなかったから。最近ずーっと難しい顔してる」
そんなわけではない、幸せとか不幸せだなんてそんなこと考えていなかっただけだ。...今までこんな事考えたこともなかったというのもあるが。
「でも冬獅郎が幸せ見つけてくれたから、私は嬉しいし幸せだよ」
「なら花音は何が一体幸せなんだよ」
そんなに幸せがどうこう言うのなら、花音の幸せの在り処が知りたくなった
そうすると花音は俺が聞くなりここ最近で1番の笑顔で、
「私の人生全部、かな」
と自慢気に言った
この瞬間思ったんだ
俺はこいつと、花音と出会えて幸せだと。
幸福概論
(貴方の幸せも、私の幸せ)
俺の幸福の象徴は花音そのものだ